2023 Fiscal Year Research-status Report
山村生活と資源利用ー静岡市井川地域における焼畑衰退後の自給的農耕と在来作物
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23KJ0997
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Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
川上 香 総合研究大学院大学, 文化科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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Keywords | 山村 / 焼畑 / 在来作物 / 地カブ / 常畑 / 緑肥 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究実施計画書に基づいて、春と秋に静岡市上坂本集落に通算28日間滞在し、農耕の参与観察を行いながら、土地利用、栽培技術、作物の変化などについて聞き取り調査を行った。また、上坂本集落と比較するため、古くから井川地域との交流があったと伝えられている飯田市上村下栗集落の巡検と聞き取り調査を実施した。 上坂本集落の自給的農耕と在来作物栽培の継承理由を解明するため、以下の項目と内容について調査した。 1)土地利用の変化と持続について、焼畑が行われていた範囲や、焼畑衰退後の耕作地の変化、現在維持されている複数の常畑の場所や面積について確認した。2)栽培技術の変化と持続について、緑肥の内容の変化や、焼畑衰退後の常畑の輪作や連作方法などを世帯ごとに調査した。3)作物の変化と持続について、現在栽培している商業品種と在来作物の種類、その種苗の保存や調達方法、料理を主とした在来作物の利用方法、在来作物の植物的特徴を聞き取り調査した。 この他に、高齢化した栽培者の農作業を支援している市街地の親族から、支援内容や、広範囲に維持されている茶畑の栽培方法と加工方法などについて聞き取り調査を行った。更に獣害の激化によって耕作地が限定されつつある現状を確認し、耕作が行われている16か所の常畑について、2023年5月から6月の作物ごとの作付け範囲を記した略図を作成した。この結果、現在は、主に親族への贈答を目的とした耕作が行われていることがわかった。また、これまでに、在来作物の地カブの栽培方法を明らかにしてきたが、地カブだけでなく、カキナと呼ばれる在来カラシナもこぼれ種子を用いて常畑で栽培されており、それぞれの菜花が咲く時期が違うことを利用して、3月中旬から6月上旬までの長期間、ニホンミツバチの蜜源に用いていることが明らかになった。学会でポスター発表を行い、在来作物と生業の結びつきの一例を示すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年は、にし阿波地域で土地利用についての比較調査を計画していた。しかし、上坂本集落での具体的な農作業支援や、茶栽培、椎茸栽培などの参与観察を行えることとなったため2024年に行う予定であった、これらの調査を前倒して行った。また、常畑の複数か所の栽培内容の観察と聞き取り調査が進捗したため、上坂本集落の農耕の現状を把握することに集中して調査を進めた。調査内容を変更する形となったが、結果的に調査が進捗し、在来作物と生業の結びつきを学会でポスター発表できたことなどから、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
山村の土地利用、栽培技術、作物栽培の変化と持続を、過去半世紀以上に渡って通時的に調査している。自給的農耕と在来作物の栽培継承の要因の解明のためには、これらのデータを検討して考察することが重要である。一方、現在の農耕の持続要因については、高齢化した栽培者世帯を支える、市街地の親族との関係や、最近の獣害の激化、気候変動について栽培者世帯がどのように対応しているかについても視野に入れる必要があることがわかった。これらの内容は各世帯ごとに多様であるため、聞き取り調査を更に行って現状を把握する必要がある。
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Causes of Carryover |
にし阿波地域の調査を延期したことと、2023年6月2日の豪雨で静岡市井川支所での資料閲覧が中止となったため、旅費と人件費の支出が減少した。当該助成金は、2024年度にこれらの調査費用に使用する予定である。
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