2023 Fiscal Year Research-status Report
赤外光による水の酸化を目指した新規プラズモニックp型半導体ナノ粒子の開発
Project/Area Number |
23KJ1171
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐野 奎斗 京都大学, 化学研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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Keywords | ナノ粒子 / 局在表面プラズモン共鳴 / 金属カルコゲナイド |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では「赤外光による水の酸化を目指した新規プラズモニックp型半導体ナノ粒子の開発」を目指す.赤外光は太陽光に含まれる未開拓のエネルギー資源であることから,赤外光エネルギーを回収して電気エネルギーや化学エネルギーへ変換するシステム,すなわち太陽電池や人工光合成に関わる研究はエネルギー・環境問題の解決に大いに貢献し得る.我々は,特定の半導体ナノ粒子が示す局在表面プラズモン共鳴(LSPR)と呼ばれる現象によって,ナノ粒子が赤外光を良好に吸収することに注目している.この吸収光をエネルギー源として,たとえば水を酸素と水素に分解することができれば,極めてクリーンに水素燃料を得ることができる. ここで,ナノ粒子がLSPRを示すためには高いキャリア密度をもつことが重要であり,本年度は,これを満たす化合物のうちLSPR発現例のないデラフォサイト型CuAlO2,カルコパイライト型CuAlS2およびCuGaS2ナノ粒子の合成を試みた.特にCuGaS2においては興味深い研究成果が得られた.金属塩を前駆体とした高温液相反応の条件探索の結果,硫黄源およびナノ粒子表面の配位子として機能するドデカンチオールの有無によって安定相のカルコパイライトのほかに準安定相のウルツ鉱型結晶構造のナノ粒子を作り分けることができた.両者ともに近赤外領域でLSPRに由来する光吸収を示したほか,反応温度の調節によって粒子径を制御可能で,これら結晶構造や粒子径の違いに応じてプラズモン特性が変化することが明らかとなった.今後はこれらの構造-プラズモン特性の相関について計算機化学を活用しながら明らかにするとともに,赤外光に応答する水分解反応への応用展開を目指す.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度中の合成を目指していた化合物,デラフォサイト型CuAlO2の合成は予定よりも難航している.中和沈殿法と呼ばれる合成手法を中心として反応条件の探索を進めたが目的化合物は得られなかった.そこで,まずCuAlS2を合成しこれを酸化してCuAlO2を合成する方針を検討した.既報論文を参考にしてCuAlS2の合成を試みたものの目的化合物は得られず,この条件下で得られた化合物は硫化銅ナノ粒子Cu9S5であった.一方,このナノ粒子中にはAlがドープされていると考えられ,この結果をもとにして様々な金属種をドープした硫化銅系ナノ粒子の合成や,これに基づくプラズモン特性制御への応用展開を期待できる. また,Cu-Al系の化合物に代わる材料群としてCu-Ga系に注目し,新規プラズモニック材料としてCuGaS2の合成に成功,プラズモン特性の解析までを終えることができた.特に,反応条件のわずかな違いによって結晶構造や粒径,ひいてはプラズモン特性を制御できる点は,今後プラズモニック材料としての応用可能性が広がる研究成果である.本研究成果については論文を執筆中であり,次年度中に投稿できる見込みである. 以上のように,研究計画どおりに進んでいない点はあるものの,新規材料の開発に成功するなど順調な進展があった.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として下記を掲げる. 1) 金属酸化物系新規プラズモンナノ粒子の合成:本研究課題の最終目標である赤外光による水分解を達成するためには,水や酸素下での安定性が高い金属酸化物系のナノ粒子が第一候補となる.そこで当該年度中に達成できなかったCuAlO2をはじめとする金属酸化物系ナノ粒子の合成に引き続き取り組む.合成に成功したCuGaS2を酸化する方法や水熱合成法,マイクロ波合成法などの方法論も多角的にも検討する. 2) 金属カルコゲナイド新規プラズモンナノ粒子の合成:今年度得られたCuGaS2合成の知識を活用して,CuInS2やCuGaSe2など,類縁化合物の合成とプラズモン特性の詳細な理解を目指す.特に,結晶構造や粒径の違いはプラズモン特性および後に検討する光触媒活性に対しても影響を及ぼすはずである.この点を考慮し,できる限り精密で再現性の高い合成方法を確立することを目標とする. 3) 上記ナノ粒子を用いた赤外光による水の酸化反応:合成したナノ粒子を用いて赤外光照射可での水の酸化反応に対する光触媒活性を評価する.
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Causes of Carryover |
2,073,841円については,学術条件整備にかかる交付決定額変更申請書によりすでに返還済である. 164,047円については,所属機関変更に伴う実験器具および装置類の移設等準備のために,研究の遂行に若干の支障が生じた時期があったため使用するに至らなかった金額である.これらは当該年度に購入予定であった実験試薬および器具の購入に使用する予定である.
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