2023 Fiscal Year Research-status Report
中華民国期上海の劇場と女性観客から見る公的空間の「脱男性化」
Project/Area Number |
23KJ1205
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
手代木 さづき 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2025-03-31
|
Keywords | 越劇 / 中国伝統演劇 / 劇場 / 女性観客 / 近代上海 / ジェンダー史 / 中国文化史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、清代以来の女人禁制から民国初年の女優・女性観客解禁へと、急速な「脱男性化」を経験した劇場空間に着目して、近代上海における公的空間の「脱男性化」の展開を通時的に明らかにするものである。 今年度は、1940年代における越劇の女性パトロンを集団として取り上げた拙稿[手代木さづき2023]を発展させ、個人に焦点を当てたミクロな女性パトロン研究を行う必要から、元来の研究計画を調整し、越劇女優と姉妹の契りを結んだ若い女性たち(過房姐妹)に関する分析を進めた。事例として取り上げた写真館の老板娘(経営者の妻)の実践からは、ひいきが単なる娯楽ではなく、商売への投資としての性質も持っていたことが分かった。演劇を軸として、名もなき女性の生を浮かび上がらせた本研究は、近代上海史、中国演劇史を越えて、ジェンダー史およびミクロ・ヒストリーにおいても有意義なものとなった。 本研究を進める過程で、日本ジェンダー学会と復旦大学・京都大学・香港城市大学主催の東亜人文研究博士生研討会で研究報告を行った。本研究は、今年度末に「越劇女優の『姉妹』と『ひいきの文化』:楽開阿姉の事例から」として査読誌に投稿し、既に受理された。 今年度9月からは、中国上海の復旦大学歴史学系にて在外研究を行い、中国人研究者と積極的に交流すると共に、上海市档案館や上海図書館、上海越劇院での史料調査を進めた。また、観劇を通じて中国伝統演劇そのものへの理解を深めると共に、中国の観劇習慣やその劇種ごと、世代ごとの違いなどを観察した。さらに、他都市の地方劇についても実地調査を行い、劇種ごとに異なる発展過程とその歴史的背景について学んだ。こうした経験は、「外から」中国演劇について情報収集するだけでは得られなかった刺激に満ちており、研究に対して新たな示唆を得ることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、1940年代における越劇の女性パトロンを集団として取り上げた拙稿[手代木さづき2023]を発展させ、個人に焦点を当てたミクロな女性パトロン研究を行う必要から、写真館の老板娘だった女性のひいきの実践について分析を進めた。研究の過程では、日中両国で研究報告を行い、異なる視点から充実したフィードバックを受けることができた。本研究をまとめた論文は、年度末に査読誌に投稿し、既に受理された。 在外研究先の上海では、日本では実見することのできない重要資料を閲覧することができた。特に档案史料の収集を通じて、これまで用いてきた新聞・雑誌史料に限定されない、より複合的な視点から女性パトロンの背景に迫ることができたのは大きな収穫だった。このほか、上海図書館や上海越劇院でも史料調査を行い、関連史料の保存状態を把握すると共に、今後の史料調査の鍵となる人脈を構築することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究を通じて、1940年代後半の越劇界では女学生ファンが存在感を増していたことが分かった。近代上海における公的空間の「脱男性化」の展開を考える上で、学校と劇場空間という異なる公的空間を行き来した女学生たちの存在は看過できない。彼女らは、越劇小報(越劇専門のタブロイド誌)に盛んに投稿し、自らの言葉を残した点で上の世代の女性パトロンとは対照的であり、その言動からは女学生アイデンティティを核とした「ひいきの文化」が形成されていたことが窺える。この研究内容についての史料はほぼそろっており、次年度はこれを論考にまとめつつつ、当初の計画にあった、演劇雑誌上の女性向け商品広告の分析にむけて広告史料の整理を進める。 また次年度も、復旦大学での在外研究を継続する。特に档案史料の収集に注力し、博士論文執筆に必要な档案史料については、できる限り復旦大学滞在中に収集することを目指す。また文献史料の収集に加えて、演劇関係者への聞き取り調査も計画している。雑誌史料、档案史料に加え、口述史料も併せて用いることで、より複合的な視点から劇場空間の「脱男性化」の過程を描き出す博士論文を書きあげたい。
|
Research Products
(3 results)