2023 Fiscal Year Research-status Report
空間反転対称性と時間反転対称性が同時に破れた超伝導の物理の開拓
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23KJ1219
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
茶園 宙弥 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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Keywords | 有限重心運動量超伝導 / 軌道効果 / 遷移金属ダイカルコゲナイド |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、クーパー対が持つ有限重心運動量に注目することで空間反転対称性と時間反転対称性が同時に破れた超伝導が示す多彩な性質を統一的に理解することである。本年度は、近年注目を集めている軌道効果に起因してクーパー対が有限の重心運動量を獲得する系についての解析を行った。 外部磁場が超伝導状態に影響を与える主な機構はパウリ常磁性効果と軌道効果である。有限重心運動量ペアリングが実現する系の代表例であるFFLO超伝導とヘリカル超伝導はどちらも前者に起因するものであり、幅広い研究が行われてきている。一方で、後者に起因する有限重心運動量ペアリングについては最近まであまり注目されていなかったが、面内磁場下のNbSe2で実現していることを示唆する実験結果が相次いで報告されたことで近年急速に注目を集めている。そこで、NbSe2の低エネルギーのバンド分散とフェルミ面を再現する強束縛模型に基づいて、面内磁場下のNbSe2薄膜の超伝導相の解析を行った。主な結果は以下の二つである。 (1)線形化ギャップ方程式による解析を行い、2層・3層のNbSe2で軌道効果由来の有限重心運動量ペアリングが実現することを示した。特に、中心の層の有無に起因して2層と3層の相図が定性的に大きく異なることを明らかにした。 (2)3層系について実空間のBdG方程式による解析を行い、超伝導ギャップの絶対値が空間的に変化する場合があることを示した。また、中心の層の超伝導の性質が温度・磁場によって大きく異なることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、軌道効果に起因する有限重心運動量ペアリングについて、NbSe2薄膜に即したモデルの解析を行いその相図を部分的に明らかにした。異なるメカニズムで有限重心運動量ペアリングが実現する系を比較することは本研究課題における重要な要素の1つであるため、この成果は大きな進展であるといえる。また、本年度に身に着けた実空間解析の手法は、今後の研究で有限重心運動量超伝導相の詳細な性質を理解するうえで非常に有用であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究をより進展させ、面内磁場下のNbSe2薄膜の超伝導相図の詳細を実空間解析の手法に基づいて明らかにする。その後、超伝導圧電効果をはじめとする各種応答の評価を行い、有限重心運動量ペアリングがそれらに与える影響を議論する。 また、ヘリカル超伝導・アナポール超伝導などの多彩な有限重心運動量超伝導についても、本年度に身に着けた実空間解析の手法に基づいた解析を行う。それらの結果を比較することで、有限重心運動量超伝導についての俯瞰的な理解を目指す。
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Causes of Carryover |
当初の使用計画ではノートPCとタブレットを本年度に購入する予定だったが、研究環境の変化などに伴いそれらの購入を一時的に見送ることになった。これが多額の次年度使用額が生じた理由である。 次年度では、本年度購入を見送ったノートPCとタブレット、およびそれらの周辺機器の購入を計画している。また、次年度も海外開催のものを含む学会・研究会への参加を予定しているが、海外の学会への参加費や渡航費等が円安により高騰しているため、それらの費用が当初の計画より増えることが予想される。それらの増加分についても次年度使用額を充てることを計画している。
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