2023 Fiscal Year Research-status Report
脂質の生体組織内三次元分布を可視化する新規ケミカルバイオロジー手法の開発
Project/Area Number |
23KJ1289
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
美野 丈晴 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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Keywords | ケミカルバイオロジー / in vivo / 近傍ラベル化 / プロテオミクス / シナプス |
Outline of Annual Research Achievements |
生きたマウス脳内で利用可能なケミカルバイオロジーツールの開発をおこなっている。本研究で開発するツールは、研究代表者が過去に開発した小分子イメージング手法FixELをベースとしている。本年度はまず、FixELの詳細なプロトコルを解説した英語論文を研究代表者が筆頭著者として執筆した。本論文は査読つき国際学術論文誌STAR Protocolsに掲載された。またFixELの詳細な原理を説明した日本語解説文を、研究代表者が筆頭著者として執筆し「生体の科学」誌に掲載された。加えて国内外問わず学会でFixELに関する成果を口頭発表し、その知見を広めた。 当初は脂質に着目し、そのマウス脳内における脂質三次元分布を解析するツールの開発を予定していたが、最近所属研究室内で得られた知見から、より有用と思われるケミカルバイオロジーツールの開発を着想したため、本年度は主にその検討をおこなった。具体的には細菌由来の酵素チロシナーゼが、培養細胞系において近傍ラベル化に利用可能であることが所属研究室内で見出された。このチロシナーゼを生きたマウス脳内で利用し、特定のシナプスの空間プロテオミクスへ展開することを着想した。実際に、標的シナプスに豊富に発現する膜タンパク質に対する選択的リガンドを、チロシナーゼに化学修飾したプローブを用意した。この修飾チロシナーゼを生きたマウス脳内へ直接投与することで、標的シナプス上へチロシナーゼを局在させることに成功した。その後in vivoでの近傍ラベル化反応を生じさせ、質量分析を利用した解析によって、生きたマウス脳内における標的シナプスの空間プロテオームを得ることに成功した。本成果は研究代表者を共著として含む英語論文として、査読つき国際学術論文誌JACSに掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、既存の近傍ラベル化酵素とは異なり、低毒性、迅速、低バックグラウンドの近傍ラベル化が可能な細菌由来のチロシナーゼを初めて、生きたマウス脳内へ適用した。実際に標的シナプスの空間プロテオームを得ることに成功し、国際学術論文誌への掲載にも至った。当初計画していた脂質に関するケミカルバイオロジーツールの開発は実施できていないが、結果的に、より有意義と思われる手法の開発が達成された。
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Strategy for Future Research Activity |
チロシナーゼによるin vivo近傍ラベル化のための検討中に確立した、タンパク質への化学修飾技術を応用して、新たなプローブの開発に着手している。具体的には、クライオ電子顕微鏡トモグラフィーを利用した、生体組織上でのタンパク質三次元構造解析に利用可能な、ナノボディ-金粒子複合体の合成をおこなっている。本研究は英国の研究グループとの共同で実施する予定である。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、マウス全脳を対象とした脂質三次元分布イメージングを計画していた。この計画のために初年度は、必要な化学プローブの合成および培養細胞実験のために膨大な費用が必要となることを予想し、それを踏まえて交付申請額を決定した。しかしながら、実際には計画を変更し、当初の計画よりも有意義であると思われる、新規チロシナーゼ酵素を用いたin vivo近傍ラベル化の検討を本年度は主におこなった。この近傍ラベル化に必要なプローブの作成においては、性質のよく知られた既存の二成分を化学的に結合するだけで十分であったため、その合成検討やプローブ最適化実験には交付申請額ほどの費用を必要としなかった。その結果、本年度の未使用分が生じた。 次年度は、上記近傍ラベル化に関する研究の中で確立した技術を応用した、新たなプロジェクトを計画している。この実験には、その計画上、膨大な数の実験動物 (マウス) を使用する必要があり、その購入費用が莫大となることが予想される。 加えて、上記近傍ラベル化に関する研究に関する知見を広め、国際的な共同研究へと発展させるため、次年度は積極的な国際学会への参加を予定しているが、現在の円安状況下では航空費の日本円での支払額が高騰している。 上記の実験動物の使用、旅費の使用に関する計画および状況に基づき、本年度交付額の一部を次年度使用することを申請した。
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