2023 Fiscal Year Research-status Report
カーボンナノチューブの量子熱光物性に基づく超高効率太陽光選択吸収体の実現
Project/Area Number |
23KJ1353
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
WU HENGKAI 京都大学, エネルギー科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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Keywords | Carbon nanotubes / Solar-thermal / Energy harvesting / Solar absorber / Spectral selectity / Engineering |
Outline of Annual Research Achievements |
太陽光エネルギーの直接熱利用技術は、持続可能で環境に優しい方法で人類社会のエネルギー需要(特に人が必要とするエネルギーの大部分である熱需要)を満たすために重要な意義を持つ。しかし、地表に到達する太陽光のパワー密度は約1kW/m2と希薄であるため、 エネルギー変換効率を向上させるためには高価な集光設備が必要となることが大きな課題となっている。本研究では、半導体型カーボンナノチューブ(CNT)の特異な量子熱光学特性を活用し、高い太陽光吸収率と低い熱輻射損失ができる太陽光選択吸収素子(SSA)を設計し、低集光度でも高効率な太陽熱エネルギー収集を実現することを目指して進めている。本年度における成果は以下に示す: 1. SSAの主要材料として想定されるCNT薄膜において、その光学異方性を確認し、複素屈折率スペクトルの決定を行った。これにより、あらゆる方向からの太陽光入射に対する光学応答を予測し、素子としての設計が可能となった。 2. 最適構造探索プログラムを拡張し、単純で性能指数の高い構造を特定し、SSAの試作を行い、スペクトルにより選択吸収特性を確認した。 3. 非集光条件での太陽光照射における到達温度を検証する実験装置を構築し、作成したSSAを用いた予備実験を行った。パワー密度が 1SUN(1kW/m2)になる擬似太陽光の照射でCNT-SSAは比較対象となる擬似黒体(吸収も熱輻射も100%に近い物質)よりも顕著に高い温度に達し、優れたエネルギー変換効率を示した。これにより、本研究の実現可能性が証明された。 4. 実験中のエネルギー流束を解析し、実験装置と試料作製の改善により、さらに高い変換効率が達成可能であることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
目標達成に向けて,主に以下の3点に取り組んでいる:(1) CNT-SSAの設計、(2) 設計したSSAの作製・実証、(3) 作製したSSAの性能評価。 本年度にはまず、CNT-SSAの光学シミュレーションに必要な情報を取得した。プログラムを拡張し、高い太陽光吸収率と低い熱輻射損失を両立する性能指数の高い構造が見つかった。上述の通り、(1)CNT-SSAの設計は当初計画通りに進行し、ほぼ完了していた。 本研究におけるSSAの光学特性は、設計された順番で制御された材料の厚さを積層することによって実現される。現在、当研究室に導入されている電子ビーム加熱真空蒸着装置と原子層堆積装置を用いて、様々な材料の積層が可能となった。本年度もいろんな材料の厚さ制御を確立し、選択吸収特性を持つ試料の作製を実現した。しかし、CNT膜の膜厚制御技術はまだ途中であり、厚さの偏差により光学特性が予想からずれて、変換効率が予想より低くなることが生じる。そのため、(2)設計したSSAの作製・実証に全力を注いでいる。 また、(3) 作製したSSAの性能評価にも着手しており、後年度に実施予定であった非集光条件での太陽光加熱実証実験及びその装置構築を、本年度に前倒した。作成したSSAを用いて予備実験を行い、試料も実験装置も理想的な状態ではないにも関わらず、同じ実験条件下でCNT-SSAは擬似黒体よりも著しく高い温度を達成し、優れたエネルギー変換効率を示した。本研究の実現可能性は既に確認されていた。予備実験の結果を踏まえて、試料と実験装置の最適化を進める。
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Strategy for Future Research Activity |
膜厚制御の不完全で、シミュレーションと実測のスペクトルに不一致が生じ、太陽光の吸収が不足し、熱輻射損失が増大している。その結果、エネルギー変換効率はまだ低下している。エネルギー変換効率を向上させるため、CNTの膜厚制御の改善を進める。 実験中のエネルギー流束は、測定されたスペクトルと到達温度を用いて解析された。現在の実験装置において、エネルギー出力は主に、試料の表面および裏面からの熱輻射、試料を支える部品および温度測定用の熱電対への熱伝導、そしてこれらの加熱された隣接部品からの熱輻射によって構成されている。試料自体からの熱輻射以外の出力により、収集された太陽熱エネルギーの中にかなりの割合が実験装置に流れ、損失と見られた。したがって、エネルギー変換効率を正確に評価するためには、実験装置(試料の固定方法や温度測定法を含む)の改良が必要となる。さらに、同一実験装置において、試料サイズが大きくなるほど、システムからの影響が小さくなることが確認されていた。より正確な評価を行うため、大面積試料の作製も進める。 また、非集光太陽光照射下の水加熱実験も予定されていた時期(3年目)より早く着手することにした。太陽光加熱実験装置の構築で得た経験と知識活用し、試行錯誤を抑え、評価結果に影響が最小限に抑えた実験装置を設計・構築を行う。
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Causes of Carryover |
上述の通り、製作されたSSAの性能を正確に評価するためには、実験装置の一新する必要がある。到達温度検証装置については、改良案を検討した上で、各部品を慎重に設計し、その製作を依頼する。水加熱実験装置についても、一部共用部品があるが、専用部品に関しても同様に慎重な設計と製造の手配が求められる。さらに、装置構築および実験に必要なその他の備品(データロガーなど)や消耗品(チャンバー窓材料など)も購入予定である。
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