2023 Fiscal Year Research-status Report
ネパールにおけるスクウォッターのモビリティと空間認識・利用に関する人類学的研究
Project/Area Number |
23KJ1359
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
北嶋 泰周 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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Keywords | スクウォッター / 露天商 / 〈合法と不法〉 / アナキズム / モビリティ / ストリート / 都市 / ネパール |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、スクウォッター(不法占拠民)による空間認識・利用の動態を脱-抵抗論的に捉えることで、我々が自明視してきた〈合法と不法〉の境界を一時的に瓦解し、合法なる領域から不法なる領域への到達がもたらす想像力の拡張可能性を人類学的に考察することである。2023年度は上半期(4月から8月)にかけて予備調査のデータに基づいた研究報告を行ない、下半期(9月から3月)にかけてネパールの首都カトマンズにおいて6ヶ月間の中期調査を実施した。 まず、上半期にはネパール・ヒマーラヤ研究会および京都人類学研究会での口頭発表を実施し、2022年度の予備調査に関するデータ提示と本研究にかかる理論的枠組みの再構成を図った。また、本研究に通じるストリート人類学関連の書評を学会誌に投稿した。 下半期における現地調査では、その全期間を通してネパール語の習得に努めた。また、カトマンズの旧市街地アサン地区およびその周辺地域で営業する露天商に参与観察し、カルパン(天秤型のかご)を用いて売り歩く露天商に関してはGPS機能を用いながら、彼らが移動する度ごとに聞き取り調査を行ない、移動のタイミングと方向、理由についてデータ収集を試みた。また、路上以外の特徴的な場所(例:歩道橋、寺院)で営業する露天商を対象に、その営業場所の選定理由や特徴的な建物に対する空間認識・利用に関する聞き取り調査を行なった。露天商の基本情報に関する聞き取り調査では、主に年齢、性別、親族関係、教育年数、出身地域、カトマンズ在住年数などを中心に、どのような経緯からカトマンズでの露天営業を始めるに至ったのかについての語りを収集した。以上の調査から、①露天商のモビリティと空間認識・利用の関係、②建物の特徴に起因する露天商の立体的な空間認識とその利用、③都市計画を進める上での“除け者”としての露天商の誕生過程に関する知見の一端を明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度の上半期において、研究会での口頭発表を通して研究枠組みの再整理を行い、現地調査に向けての下準備とすることができた。そして下半期には現地定着調査を開始することができたのは大きな進捗である。 現地調査では語学習得から着手し、語学の上達とともに、露天商や地域管理団体への聞き取り調査を開始した。ネパール語の習得は、来年度以降の調査に不可欠であることはもちろん、報告者による今後のネパール研究には欠かせないものであり、評価点の一つである。 また、現地語を用いた聞き取り調査を通して、現地社会への理解が深まった。とりわけ露天商に対する参与観察を通して、各空間ごとに見出していく価値とその転換を捉えることができつつある。そして、彼らのライフヒストリーに関する聞き取り調査およびその分析から、彼らがカトマンズで露天商を始めるに至った経緯が明らかになりつつあるところであり、彼らの時間軸を捉えた民族誌的記述も進んでいる。加えて、2023年度から露天商による営業権獲得に向けた抗議活動の勢いが増したことを受け、ネパール労働組合に参与することもでき、カトマンズ市当局で収集した露天商対策のデータと彼らの抗議活動に関する語りを照らし合わせることで、露天商の抗議活動史も明らかになってきた。 以上のように、定着調査が予定通りに進んでおり、想定していなかった新たな公的文書および露天商や労働組合員の語りを収集することができた点からも、全体として研究はおおむね順調に進んでいるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度以降の研究計画としては、まず上半期に2023年度に収集したデータを整理・分析に取り組むと同時に、国内の学会および研究会にて口頭発表を行う予定である。また、そのフィードバックをもとに学会誌への論文投稿を進める。 そして下半期には昨年度の現地調査に続き、ネパールの首都カトマンズでの調査を進める。特に2024年度の調査では、露天商が多く点在するカトマンズ市内だけではなく、許可の取れた露天商の出身地であるネパール地方部およびインド・ビハール州への訪問も視野に入れ、当該露天商がカトマンズへ移住した時期における村の状況に関する聞き取り調査を行うことを予定している。これはカトマンズの露天商の視点から村落社会の変容を捉えることが可能となり、体制転換期ネパールの動態を解明する上で新たな視座を提示することが可能になると想定している。
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Causes of Carryover |
2023年度に実施した現地調査や購入文献および研究物品の一部は、同年度に採択された民間助成を使用した。そのため、予定よりも物品費および旅行費の支出が減ることになり、次年度使用額が生じた。次年度繰越となった分については、2024年度上半期に参加予定の学会および研究会への旅費、下半期から実施する現地調査にかかる旅費および文献・研究物品購入費に当てることを計画している。
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