2023 Fiscal Year Research-status Report
ウリ科作物タンパク質を介したリガンドの長距離輸送による生理意義の解明
Project/Area Number |
23KJ1410
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
藤田 健太郎 大阪大学, 薬学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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Keywords | Major latex-like protein / ズッキーニ / X線結晶構造解析 / ウリ科 |
Outline of Annual Research Achievements |
Major latex-like protein (MLP) は、病原菌感染等のストレスに応答するタンパク質である。ウリ科作物ズッキーニでは、土壌中の有機汚染物質を地上部に蓄積するが、これにはMLPが深く関与する。根細胞で合成されたMLPは、有機汚染物質と根で結合し、導管へと分泌される。その結果、MLPを介して有機汚染物質は地上部に輸送される。 MLPの生理機能は、有機汚染物質とは異なる低分子化合物 (リガンド) と結合し、長距離輸送することである。しかし、MLPの真のリガンドは未だ同定されていない。本研究におけるMLPの真のリガンドの同定により、「MLPを介した真のリガンドの長距離輸送による生理意義の解明」へと研究を展開する。 今年度は、MLPの結晶化条件を決定した。大腸菌から精製した組換えMLPを用いて結晶化スクリーニングを実施し、回折するMLPの結晶化条件を決定した。 ズッキーニの導管液タンパク質のうち、約80%はMLPで占められる。よって、MLPの分子量に相当する導管液タンパク質の結晶化により、MLPとリガンドの共結晶を高確率で得ることができると考えた。そこで、ズッキーニの導管液約600 mL (約600個体分) からゲル濾過クロマトグラフィーにより、MLPの分子量に相当する画分のタンパク質を精製した。上記で決定したMLPの結晶化条件で、精製した画分を結晶化に供した。しかしながら、現在までに導管液から精製したMLPの画分からは結晶は得られていない。 また、上記の方法と並行して、組換えMLPを用いた真のリガンド同定も行なった。組換えMLPを結晶化する際に、凍結乾燥したズッキーニの導管液の粉末を加え、真のリガンドとの共結晶化も試みた。結晶は得られたものの、MLP内部のキャビティには、帰属不明な電子密度が見られ、その低分子の同定には至っていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度の進捗として、MLPのX線結晶構造解析の確立が挙げられる。 大腸菌における発現用にコドン最適化したMLPを大腸菌から精製し、結晶化スクリーニングに供した。大型放射光施設SPring-8においてX線回折実験を行い、構造解析が可能な結晶が得られる結晶化条件を決定した。分解能は1.15オングストロームであり、非常に高分解能であった。そのため、ズッキーニ由来のnative MLPを結晶化できれば鮮明な電子密度マップが得られると考えた。 次に、MLPの真のリガンドの同定に向けて、ズッキーニの導管液から精製したnative MLPの結晶化を試みた。ズッキーニを約600個体栽培し、各個体の茎からの滲出液を師管液が混入しないように、約600 mLの導管液をサンプリングした。ズッキーニの導管液タンパク質のうち、約80%はMLPで占められることが、プロテオーム解析から明らかになった。また、導管液20 mL程度を用いた予備実験の結果より、ゲル濾過クロマトグラフィーで導管液中の総タンパク質からMLPの分子量に相当する位置にシングルピークが見られた。以上の結果を考慮して、約600 mLの導管液においてもゲル濾過クロマトグラフィーを行ったところ、シングルピークが見られた。シングルピークの画分をSDS-PAGEに供した結果、MLPの分子量の位置にタンパク質が存在していた。その画分を限外濾過により可能な限り濃縮し、上記で決定した結晶化条件で結晶化を行った。しかし。10ヶ月が経過した現在でも、結晶は得られていない。 また、組換えMLPを結晶化する際に、凍結乾燥したズッキーニの導管液の粉末の添加による共結晶化も試みた。結晶は得られたものの、MLP内部のキャビティには、帰属不明な電子密度が見られ、その低分子の同定には至っていない。 以上の結果から、本研究は当初の計画よりもやや遅れていると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
導管液からのnative MLP精製を用いた結晶化、組換えMLPと導管液の凍結乾燥粉末による共結晶化を行った。しかしながら、両アプローチでMLPの真のリガンドの同定には至らなかったため、根本的な方法や研究の方向性を検討する必要がある。 方法の検討として、ウイルス誘導性遺伝子サイレンシング法を用いたズッキーニの全身でMLP遺伝子のノックダウンを検討している。MLP遺伝子ノックダウン個体と野生型の個体から導管液を採取し、メタボローム分析に供する。MLP遺伝子ノックダウン個体で存在量が減少する低分子化合物をMLPの真のリガンド候補として同定する。Biacore 1S+を用いた表面プラズモン共鳴法により、MLPとリガンド候補の結合親和性の測定を行い、MLPと結合親和性が高い低分子化合物を同定する (Biacore 1S+のセンサーチップへの固定化に向けたMLPのC末端にAviタグを付加した組換えMLPの精製は実施済)。 研究の方向性としては、MLPと結合することでシグナル分子である真のリガンドが、根から葉へ長距離輸送されると当初は考えていたが、MLP自身がシグナル分子として機能するという仮説も考慮している。すなわち、MLPが葉へ輸送されると、葉に存在する受容体などのタンパク質と相互作用し、葉において特定のシグナル伝達経路が活性化されるというモデルである。この仮説を実証するために、MLPと葉で相互作用するタンパク質の同定を行う。ズッキーニの葉に、MLP遺伝子の下流にタグ (GFPまたは3xFLAG) を連結したコンストラクトを持つアグロバクテリウムを接種する。これにより、MLP遺伝子をズッキーニの葉で一過的に発現させ、共免疫沈降により、MLPと相互作用するタンパク質をSDS-PAGEにより検出する。検出されたバンドをLC/MS/MSに供し、相互作用タンパク質の同定を行う。
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Causes of Carryover |
当初の予定よりも研究の進展がなく、予定よりも物品の購入量が少なかった。次年度に、新しいアプローチによる研究展開を考えているので、その実験系の構築に執行する予定である。
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