2023 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23KJ1463
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
物江 祐弥 大阪大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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Keywords | RNA修飾 / 5'-tRF-GlyGCC / 大腸癌 / 自然免疫 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「癌放出細胞外小胞は内包するRNA種やRNA修飾体のプロファイルを正常細胞と変え、あえて単球やマクロファージに非自己と認識させることで、自然免疫を活性化させ、サイトカイン産生を介して腫瘍優位に誘導している」という仮説を検証することを掲げており、独自の癌組織由来EVs回収方法やRNA修飾解析技術によってその詳細な制御メカニズムを明らかにすることを目的とした研究である。 昨年度、大腸癌放出EV中に濃縮されている5’-tRF-GlyGCCは、大腸非癌部由来のEV中5’-tRF-GLyGCCに比べ顕著にm6A修飾レベルが低下していることを同定しており、この修飾レベルの低下がマクロファージに対して、炎症応答を誘導することを明らかにした。また、m6A脱メチル化酵素ALKBH5ノックアウト細胞より得られる高m6A-EVがマクロファージに対して炎症応答を誘導しないことを証明した。さらに、in vivo実験においてもALKBH5ノックアウト細胞由来高m6A-EVは腫瘍内で炎症を誘導できず、腫瘍成長を促進しないことも明らかにした。 5’-tRF-GlyGCCによるマクロファージの炎症誘導が直接、腫瘍促進的に作用するかの検証では、in vitroにおいて5'-tRF-GlyGCCで炎症誘導されたマクロファージ培養上清に炎症性サイトカイン中和抗体添加により、癌細胞の増殖亢進がキャンセルされた。また、in vivoにおいて、5’-tRF-GlyGCCを搭載させたEVを大腸癌移植マウスに投与すると、腫瘍形成を顕著に亢進し、クロドロン酸投与によるマクロファージ枯渇モデルマウスではこの表現型がキャンセルされることを明らかにしている。 これらの結果より、大腸癌EV中の5’-tRF-GlyGCCにおけるm6A修飾の減少が腫瘍内おいてマクロファージに対して炎症を誘導し腫瘍促進的に働くことを証明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
5'-tRF-GlyGCC上に存在する自然免疫応答を制御するRNA修飾体として、非癌部由来EVに比べ大腸癌由来EVで減少するm6A修飾を同定できている。また、ALKBH5ノックアウト細胞由来EVを用いた検討から、EVにおけるm6Aレベルの変化がマクロファージに対する炎症誘導を撹乱し、腫瘍優位に働くことを生体内において実証した。また、5'-tRF-GlyGCC自体が生体内において、マクロファージに対して炎症誘導を起こし、腫瘍促進的に働くリガンド分子となることを明らかにしている。 EV中の特定のtRNA Fragment上RNA修飾状態が制御されており、大腸がんにおいてはm6Aが低レベルになることで、マクロファージの自然免疫機構を撹乱し、腫瘍優位に働くという腫瘍免疫における全く新しい機序を生体内レベル明らかにしている点から当初の計画以上に進展していると判断した。 また、機序の中心となる修飾体を同定できたことから、ALKBH5阻害剤などを用いた新たな腫瘍免疫撹乱を標的にした治療戦略を打ち出せる可能性も見い出されてきた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究のコンセプトである「大腸癌EVは内包するRNA種やRNA修飾体のプロファイルを正常細胞と変え、あえてマクロファージに非自己と認識させることで、免疫機構を撹乱させ腫瘍優位に誘導する」という仮説の実証を目指してきたが、この機序が果たして新たな治療標的として有望であるか、また幅広い癌種においても同様の機構が存在するか検証する必要がある。 癌臨床検体由来細胞に対するALKBH5の阻害剤などを用いたm6A脱修飾酵素活性遮断による効果の検証や昨年度までに確立してきたマウス腫瘍モデルを用いた個体レベルでの評価を実施する。また、複数種の癌種由来EVも同様に回収し、マクロファージに対して炎症誘導をできるか検証を行う。さらに、それらがRNA修飾を介した制御を受けているか評価することで、広い癌種での適応が可能か検討する。これらの検討より、癌EV由来RNA修飾による免疫撹乱を標的とした全く新しい機序による革新的腫瘍免疫治療戦略を確立する。
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Causes of Carryover |
現在、これまでに得られた研究成果を元に論文執筆を行なっており、その際にかかる経費として英文構成、投稿費用として計上していたが、論文作業が年度を超えて時間がかかっているため、これら費用の一部が次年度分と合わせて使用する額として生じた。 今年度は、当初計上していた額に加えて、昨年度からの助成金を合わせたその他に該当する経費を論文作業に使用する予定である。
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