2023 Fiscal Year Research-status Report
次世代プラスチック資源循環システム構築に向けた革新的ゼオライト触媒の開発
Project/Area Number |
23KJ1510
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
國領 伸哉 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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Keywords | ポリオレフィン / 接触分解 / ゼオライト |
Outline of Annual Research Achievements |
廃プラスチックの増加に伴う環境問題の深刻化を受け、近年、ケミカルリサイクル(CR)が注目を浴びている。CRが実現すると、廃プラスチックからモノマーや石油化学原料などの工業的に有用な材料を得ることができ、プラスチック資源の循環が可能となる。しかし、プラスチックの熱分解温度は高温である上、廃プラスチックの過半を占めるポリオレフィンは、炭素鎖がランダムに切れるため、特定の化学原料を効率的に回収することが困難である。そのため、適切な触媒の開発が求められている。中でもゼオライト触媒は、固体酸性や規則的な細孔構造といった優れた機能を持つことから、CRへの応用に向け盛んに研究が行われている。しかし、ポリオレフィン分解の反応メカニズムに関する理解が不十分であり、これまでゼオライトの細孔径、外表面積などの物理的ファクターに着目した研究がほとんどであった。そのため、ゼオライトの持つポテンシャルを十分に引き出せず、その性能は頭打ちになっていた。これを解決するためには、分解反応のメカニズムに立脚した化学的なアプローチが必要であると考えた。そこで、以下3点の課題を設定し、反応メカニズムの観点から、これらの達成を目指して新規ゼオライト触媒の開発を行っている。 1. 分解温度低下のキーファクターの特定 2. 触媒失活の原因であるコーク析出の抑制 3. 生成物の選択性向上による低級オレフィン収率の向上 本年度は、上記の課題1および2に取り組んだ。課題1については、ヒドリドイオンの引き抜きによって分解反応の中間体であるカルベニウムイオンが生成することから、触媒のLewis酸性向上によってポリオレフィンの分解温度が低下することを示した。課題2については、脱水素作用を有する金属種をゼオライト中に導入することで、コーク前駆体である芳香族化合物をゼオライト上で水素化、開環を経て分解し、失活を抑制することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、ポリオレフィン分解反応のメカニズムに立脚した化学的アプローチによる、最適なゼオライト触媒の開発を目指している。本研究における課題(1)分解温度低下のキーファクターの特定、(2)触媒失活の原因であるコーク析出の抑制について、それぞれ新規な触媒設計コンセプトを提案し、その両研究において多くの成果をあげた。具体的には、これまで重要性が認識されてこなかったゼオライトのLewis酸性に着目することで1つ目の課題を解決した。ヒドリドイオンの引き抜きによって分解反応の中間体であるカルベニウムイオンが生成することから、触媒のLewis酸性向上によってポリオレフィンの分解温度が低下することを初めて示した。また、脱水素作用を有する金属種をゼオライト中に導入することで、コーク前駆体である芳香族化合物をゼオライト上で水素化、開環を経て分解し、失活を抑制することに成功した。さらに、これらの研究成果に関する論文を多く執筆し、国際論文誌に投稿することができた。中でも、自身が第一著者として手掛けた論文については、いずれも国際論文誌の表紙に選定され、外部からも高く評価される形となった。 また、これらの成果の発表に関する活動も積極的に行った。特に今年度は、コロナ禍も完全に明け、対面での学会開催が活発化した年であった。自分自身も、国内・国外問わず多くの学会に参加し、研究成果を広めることができた。以上のことから、当初期待していた以上の進展があったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定通り、ポリオレフィンの接触分解反応に最適なゼオライト触媒の開発に向け、以下3つの課題から得られた知見の融合を目指す。 1. 分解温度低下のキーファクターの特定 2. 触媒失活の原因であるコーク析出の抑制 3. 生成物の選択性向上による低級オレフィン収率の向上 工業的に有用な低級オレフィンは、ブレンステッド酸点の作用によりオリゴマー化、異性化、クラッキングを経て他の炭化水素へ変換されてしまう。したがって、ブレンステッド酸点を除去することによって、低級オレフィンの収率が向上すると考えられる。自身のこれまでの研究から、ポリオレフィンの分解反応はルイス酸によっても促進されることを確認している。そこで、ルイス酸点のみを有するSn-Betaゼオライト触媒を合成し、LDPE分解反応に用いることで、従来のゼオライトよりも低級オレフィン(エチレン、プロピレン、ブテン)の収率が向上すると考えられる。 課題3の達成後、課題2で得られた知見を組み合わせる。具体的には、コーク析出抑制効果が確認された金属種を、合成したSn-Betaに導入することで、低級オレフィンを選択的に生成し、かつ繰り返し使用可能な触媒の開発を目指す。
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