2023 Fiscal Year Research-status Report
Elucidating the effects of "human hair bacteria that regulate gene expression in keratinocytes" on hair growth
Project/Area Number |
23KJ1710
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
山田 あずさ 九州大学, 生物資源環境科学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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Keywords | 毛髪 / 毛髪細菌 / HaCaT / SIRT1 / TERT |
Outline of Annual Research Achievements |
健康的で美しい毛髪を維持することは全人類の願望である。皮膚科学分野では、毛の産生器官である皮膚埋没部(毛包)での毛髪のライフサイクル(毛周期;毛の成長から脱落)を長年にわたり議論してきた。さらに近年では、ヒト毛髪の毛根部から毛先までの表面常在菌(毛髪細菌;>720種)の実態が明らかとなり、毛髪研究は微生物学との融合分野へと発展の兆しを見せている。宿主との関係性は、毛髪細菌が汗や皮脂などから栄養を補給して生きていることが明らかとなってきた。一方で、毛髪細菌からヒトへの影響は不明でありそれらの機能探索は未踏の地である。毛髪細菌は毛根部を起源に繁殖し、ケラチノサイト(毛包細胞)の外膜表面に接触している。ケラチノサイトの内部では、毛のライフサイクルが多様な遺伝子発現で制御されている。 以上のことから申請者は、毛髪細菌がケラチノサイト内部の細胞代謝活性(SIRT1)や育毛促進(TERT)を司る遺伝子発現を変化させると仮説を立て、検証実験を進めている。SIRT1は、ヒト皮膚でDNA損傷の修復やミトコンドリア機能を強化し、頭皮や毛包細胞の毛周期の正常化を促すことに加えて、毛包幹細胞の活性を促すTERTの発現を誘導する。したがって、申請者の仮説すなわち、毛髪—細菌間の相互作用機構が解明されれば、難治療性頭皮・毛髪疾患の創薬開発に繋がる。申請者は現在まで、毛髪細菌の優占菌種(標準株と独自に単離した株)の死菌試料をケラチノサイトに接触させた影響を調査し、①毛髪細菌はケラチノサイトの細胞活性を調整する点と②ヒト細胞長寿遺伝子(SIRT1)および育毛促進遺伝子(TERT)の発現を制御することを明らかにした。一方、毛髪細菌による制御機構や機能性は未解明であることから毛髪細菌による毛髪成長の制御機構を解明する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では毛髪細菌による毛包細胞内遺伝子の発現制御機構や生体内での機能性を解明することを目的とする。令和5年度には、先行研究で申請者が選定した優占な毛髪細菌種を用いてケラチノサイト内発現制御を受けると確認したSIRT1およびTERTの機能評価を施行した。SIRT1およびTERTの機能として報告されるミトコンドリアの活性化において、毛髪細菌であるCutibacteriu acnes, Pseudomonas lini添加済ケラチノサイトにおいてミトコンドリア活性の有意な増加を示した。加えて細菌添加によるケラチノサイト生細胞数は減少が見られなかったことから細胞毒性の無害性が示唆された。従って優占な毛髪細菌によりケラチノサイト内SIRT1およびTERTが発現増強されミトコンドリア活性化が促進されたと示唆した。また、SIRT1は損傷DNAの修復機構開始因子である。本研究では紫外線(UV-B)暴露によりDNA損傷を誘導後ケラチノサイト内のシクロブタン型ピリミジンダイマー(CPD)を免疫染色により定量した。修復能評価では優占種添加済ケラチノサイトでDNA修復傾向が示されP. liniに供したケラチノサイトは有意な改善が見られた。本結果は毛髪細菌によりケラチノサイト内SIRT1発現が促進されたことで、DNA修復機構が促進されたことを示唆するものである。さらに、TERTは育毛促進に寄与することから、毛周期に関連する育毛関連遺伝子の発現量をRT-qPCRにより評価した。このうち発毛促進を促す遺伝子発現をC.acnesおよびStaphylococcus epidermidisが示し、脱毛促進を促す遺伝子発現をP. liniが示した。以上のことから、令和5年度には毛髪細菌による毛包細胞内遺伝子の新たな発現制御および発現機能を明らかとした。これらの成果は国際会議で発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
毛髪関連遺伝子の制御を示した毛髪細菌をマウスの皮膚に塗布することで育毛評価をvivoで行う。皮膚のしわ・厚み、体毛の成長速度・毛密度・毛包の大きさを測定し、毛髪細菌の機能を評価する。 続いて細菌の機能を標準株と分離株で比較し、違いが顕著である同菌種の異株を用いて作用因子の定性・定量を行う。細菌を細胞壁画分と水溶性画分に分画し各成分で遺伝子発現の挙動を捉えることで制御因子を含む部位を特定し、精製する。定性・定量には、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC/MS)および液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)を用いる。 なお、GC/MSおよびLC/MS装置は九州大学農学部にて保有しており、上記の研究を遂行するために、装置使用料、分子生物学用試薬、ディスポーザブル実験器具類などの消耗品が必要である。また、得られた成果を国際会議で発表し国際誌へ論文投稿する。
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