2023 Fiscal Year Research-status Report
高比表面積な有機結晶材料が実現する水の室温超核偏極
Project/Area Number |
23KJ1715
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
松本 尚士 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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Keywords | 動的核偏極 / NMR / 光励起三重項 / 多孔質モノリス / エネルギー移動 / アップコンバージョン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、光励起三重項電子を用いた動的核偏極 (triplet-DNP) による室温での水の超核偏極を通じて、超偏極水を連続的に NMR 分光器へ供給することでタンパク質をはじめとした微小試料の連続的な NMR 高感度化システムを実現することである。これまでに有機ナノ結晶を用いて水の超核偏極に成功した一方で、材料の収率や水の NMR 増感倍率の向上が課題とされていた。そこで、バルクで作製可能かつ比表面積の大きな材料として多孔質モノリスに着目した。シリカモノリスを鋳型としてその構造を有機結晶に転写することにより、p-ターフェニル結晶モノリスの作製を行った。得られた結晶モノリスについて、結晶表面における核スピン偏極移行を志向してドナー分子からの三重項エネルギー移動を調査したところ、モノリス表面にて効率よくエネルギー移行が起こることがわかった。加えて、モノリスからアップコンバージョン発光が観測され、結晶モノリスの光機能性材料としての可能性を見出した。 また、界面における偏極移行に関する更なる知見を得るためシリカナノ粒子に担持させたラジカルと溶液中の光励起三重項電子スピン間における偏極移行について調査したところ、固体表面での分子の運動性が偏極移行に大きな影響を及ぼすことが明らかとなった。 これらの知見を踏まえて今後偏極源を導入した結晶モノリスに対して効率よく水への偏極移行が起こるように分子修飾を施し、triplet-DNPによる水のNMR信号の増感倍率が改善されるか検討する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
鋳型であるシリカモノリスに対してp-ターフェニルの融液を導入し、p-ターフェニル結晶モノリスの作製を行った。加えて、結晶モノリスの構造がシリカモノリスの構造に応じて制御できることを見出し、結晶モノリス作製及びその構造制御方法の確立に至った。得られた結晶モノリスはその表面においてドナー分子からのエネルギー移動が効率よく起こることから、比較的高い比表面積を有することが確認された。これは有機結晶から水への偏極移行が有効に起こる可能性を示唆する結果である。更に、ラジカルと光励起三重項分子間の偏極移行において分子の運動性が関係していることを見出し、水への偏極移行の高効率化のための結晶モノリス表面の分子修飾における新たな知見を得た。以上のことから、水のNMR増感倍率の向上に向けておおむね順調に研究が進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
最適化した結晶モノリスの表面に分子修飾を施し、水への偏極移行効率の向上を図る。偏極移行には水分子の運動性が重要であるとの知見を得たことから、様々な分子を表面に修飾することで水分子との相互作用を変化させ運動性を制御し、偏極移行効率との相関を確認する。加えて、ブリッジマン法を用いて偏極源を導入した単結晶モノリスを作製を試みる。偏極源の磁場に対する配向を揃えることで結晶自体の NMR 増感倍率を向上させ、水に受け渡すことのできる核スピン偏極の最大化を検討する。
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Causes of Carryover |
2024年2月に予定されていた出張での実験が5月に延期になったため。 2024年5月に変更となったため、その際の旅費として使用する予定である。
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