2023 Fiscal Year Research-status Report
長寿命樹木における個体内の遺伝的多様性が生み出す環境適応力の解明
Project/Area Number |
23KJ1722
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
富本 創 九州大学, システム生命科学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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Keywords | 体細胞突然変異 / 遺伝的多様性 / 数理モデル / ゲノム解析 / 環境適応 / 樹木 / 個体性 / 幹細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
長寿な樹木の個体内では体細胞突然変異が蓄積する。体細胞変異は成長に伴って拡がり、枝ごとに異なるゲノムをもつ遺伝的にモザイクな個体が形づくられる。樹木では、体細胞変異は各枝から次世代へ受け継がれるため、芽生えの段階では遺伝的に同一であった1個体の樹木から、遺伝的に多様な次世代が生じる。本研究課題では、個体内に蓄積した体細胞変異がどれだけ樹木集団の遺伝的多様性を高め、適応進化に寄与するのか数理モデルとゲノム解析から検証する。 令和5年度はとくに、体細胞変異によって生じる個体内の遺伝構造を中心に研究を行なった。まず個体内の遺伝的多様性が、樹木のとる樹形構造に応じてどの様に変化するのかを数理モデルを用いて評価した。遺伝的多様性は枝間の距離が大きくなる程、増加した。茎頂分裂組織内の幹細胞間に遺伝的な異質性がある場合、枝分かれ前の幹の長さも遺伝的多様性の増加に寄与した。また個体内の枝の総延長が一定の場合には、頂芽優勢が強い樹形ほど、個体内の遺伝的多様性が大きくなった。以上の内容は既に論文にまとめ、現在査読中である。また、個体内に蓄えられた遺伝的多様性が進化に与える影響について検証し、注目する生態・進化的現象に応じた適切な遺伝的多様性の指標を提案した。こちらも査読中である。さらに実際の熱帯樹木4個体から得られた体細胞変異のデータをもとに、個体内における体細胞変異の動的な蓄積過程の推定を行っている。体細胞変異を持つ細胞の系譜を追跡することで、樹木の成長における幹細胞系列の維持メカニズムの解明も期待できる。現在、解析を進め論文を執筆中である。並行してゲノム解析および、変動環境への体細胞変異の寄与のモデル解析の準備も行なっている。 加えて新たに、体細胞変異と生殖細胞変異それぞれの進化への寄与を数理的に評価する研究を進めている。当初予定していた研究計画に加え、新規研究の進展もあり、順調に進んでいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和5年度はとくに、体細胞変異によって生じる個体内の遺伝構造を中心に研究を行なった。まず個体内の遺伝的多様性が、樹木のとる樹形構造に応じてどの様に変化するのかを数理モデルを用いて評価した。遺伝的多様性は枝間の距離が大きくなる程、増加した。茎頂分裂組織内の幹細胞間に遺伝的な異質性がある場合、枝分かれ前の幹の長さも遺伝的多様性の増加に寄与した。また個体内の枝の総延長が一定の場合には、頂芽優勢が強い樹形ほど、個体内の遺伝的多様性が大きくなった。以上の内容は既に論文にまとめ、現在査読中である。また、個体内に蓄えられた遺伝的多様性が進化に与える影響について検証し、注目する生態・進化的現象に応じた適切な遺伝的多様性の指標を提案した。こちらも査読中である。さらに実際の熱帯樹木4個体から得られた体細胞変異のデータをもとに、個体内における体細胞変異の動的な蓄積過程の推定を行っている。体細胞変異を持つ細胞の系譜を追跡することで、樹木の成長における幹細胞系列の維持メカニズムの解明も期待できる。現在、解析を進め論文を執筆中である。並行してゲノム解析および、変動環境への体細胞変異の寄与のモデル解析の準備も行なっている。 加えて新たに、体細胞変異と生殖細胞変異それぞれの進化への寄与を数理的に評価する研究を進めている。当初予定していた研究計画に加え、新規研究の進展もあり、順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和6年度以降は、(i) ゲノム解析による亜寒帯樹木の体細胞変異の検出、および(ii) 体細胞変異が樹木集団の適応に与える影響を調べる。 まず(i)では、既存のリファレンスゲノムを用いて体細胞変異の検出がどの程度可能か検証するとともに、パイプラインを構築する。その後、必要に応じて当該個体から作成したリファレンスゲノムを用いて、体細胞変異の検出を高精度で行う。得られたデータをもとに、数理モデルを用いて亜寒帯樹木個体内での体細胞変異ダイナミクスを推定する。 次に(ii)では、まず令和5年度に着想した新規研究、体細胞変異と生殖細胞変異それぞれの進化への寄与の数理的評価を論文にまとめ投稿する。並行して、体細胞変異による変動環境への適応を数理モデルにより検証する。その後、(i)で得られたデータと統合しモデルの検証を行う。
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Causes of Carryover |
円安の影響により、国際学会の旅費が予想以上に多くなった。一方で、当初予定していた次世代シーケンス解析を新規に実施せずとも、研究を遂行できる可能性が判明したため、その予算を旅費に充てた。そして、必要に応じて翌年度以降に実施できるよう当該予算の残額を翌年に繰り越した。
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[Journal Article] The molecular clock in long-lived tropical trees is independent of growth2023
Author(s)
Satake, A., Imai, R., Fujino, T., Tomimoto, S., Ohta K., Na’iem, M., Indrioko, S., Widiyatno, Purnomo, S., Molla Morales, A., Nizhynska, V., Tani, N., Suyama, Y., Sasaki, E., Kasahara, M.
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Journal Title
eLife
Volume: 12
Pages: RP88456
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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