2023 Fiscal Year Research-status Report
強誘電・強磁性体中での低エネルギー障壁機構による非断熱・非平衡現象の解明
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23KJ1767
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
入江 鮎 熊本大学, 自然科学教育部, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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Keywords | 計算機シミュレーション / 非平衡現象 / トポロジカル構造 / 欠陥 / 熱電能 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では計算機シミュレーションを用いてトポロジカル構造の生成や熱・電気伝導などの非平衡現象を解明することを目指している。 スキルミオンに代表されるトポロジカル構造は、制御が容易で低消費電力かつ高密度実装を実現する不揮発性メモリなどへの応用が期待されている。BaTiO3を対象とした研究で、2枚のナノシートをツイストして重ねると分極渦が形成されることが報告された。我々は、BaTiO3と同様のペロブスカイト構造をもち、超格子でスキルミオンが現れるPbTiO3/SrTiO3を対象として、それらのナノシートをツイストして重ねた時、トポロジカルな構造が現れるか、またそのダイナミクスについて調査する。トポロジカル構造の再現には大規模な系での計算が不可欠であるため、第一原理分子動力学シミュレーションを基に機械学習原子間ポテンシャルを構築した。 単層MoS2(M-MoS2)は1.8 eVの直接バンドギャップをもつなどの卓越した特性から、高機能なデバイス利用を目指した広範な研究が推進されている。我々は、結晶粒界(GB)の熱・電気伝導に対する影響を調べた。5及び7員環から成るGBを含んだM-MoS2、及び完全結晶のM-MoS2を対象として熱・電気伝導度を算出し、異方性とその起源について調査した。GBに対して平行方向の熱伝導にはGBは有意な影響を示さないのに対し、GBに対して垂直方向には完全結晶の約80%程度低い熱伝導度を示すことが分かった。また、完全結晶と比較してGBを含む系は総じて高い電気伝導度を示すことが分かった。以上のことから、M-MoS2はGBの導入により低い熱伝導度と高い電気伝導度を兼ね備えた、高い熱電能をもつ半導体として応用が期待できることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ツイストし積層したPbTiO3/SrTiO3におけるトポロジカル構造の再現には、周期境界条件を課せないため、大規模な系を扱う必要がある。我々は様々な物質で頑健なポテンシャルの構築が報告されてきたAllegroを用いて、第一原理分子動力学シミュレーションに基づいた機械学習原子間ポテンシャル(MLIP)を構築した。構築したMLIPでは、周期境界条件を課した場合はPbTiO3、SrTiO3どちらも安定して計算を実行できた。しかし、周期境界条件を課さずに本MLIPでシミュレーションを行った場合、フレークの角からSiO3やPbO3が離脱し、構造を安定に保つことができなかった。これは学習に用いた教師データに、フレークの角や表面が含まれないからだと考えられる。 結晶粒界を含む単層MoS2の熱・電気伝導度計算に関しては全てのシミュレーション、解析、論文執筆が完了し、現在投稿を行なっている。
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Strategy for Future Research Activity |
ツイストし積層したPbTiO3/SrTiO3におけるトポロジカル構造の再現するために、安定して分子動力学シミュレーションを実行できる頑健な機械学習原子間ポテンシャル(MLIP)を構築する。まず、追加の第一原理分子動力学計算(AIC)を行う。具体的には、フレークの角や表面が含まれる系を用いて行ったAICの結果を教師データに加える。また、対象とする構造ではファンデルワールス力の影響が大きいと考えられるため、これを考慮したDFT-Dを採用してAICを実行する。そのように多様な教師データを基に構築したMLIPを用いて大規模計算を実施し、分極渦の生成とそのダイナミクスについて詳しく調査する。また、分極渦はペロブスカイト構造の歪みが起源であることから、ナノシートを変形させることによってもトポロジカル構造を生成できることが期待される。したがって、ナノシートを引き伸ばし・圧縮して分極渦の生成・消滅を調べる。
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Causes of Carryover |
学会参加費を計上する予定だったが、次年度に計上することになり、次年度使用額が生じた。発生した次年度使用額は予定していた通り学会参加費として2024年9月以降に計上する。
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