2023 Fiscal Year Research-status Report
運動効果の個体差が生成されるプロセスを解明する骨格筋エピジェネティクス研究
Project/Area Number |
23KJ2061
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Research Institution | Matsumoto University |
Principal Investigator |
清水 純也 松本大学, 健康科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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Keywords | 運動効果の個体差 / 骨格筋エピジェネティクス / 運動誘発性H3K27me3 |
Outline of Annual Research Achievements |
運動トレーニングに対する筋の適応は、生体機能にとって重要な運動効果であり、健康で長い寿命を支える鍵である。一方で、この筋適応範囲には大きな個体差があることも知られている。先行研究では、筋適応範囲を規定する主たる要因である「単回運動に対する遺伝子応答」が、運動トレーニングによって亢進することが明らかとなっており、運動効果の個体差が「生成される」可能性が示唆されている。私たちは以前、運動が筋に誘発するエピジェネティクス「H3K27me3」が、単回運動に対する遺伝子応答性と運動トレーニングに対する筋適応を促進することを明らかにした。そこで私たちは、運動トレーニングによる運動誘発性H3K27me3の濃縮が、筋の遺伝子応答性を亢進させているのではないかという仮説を立てた。本研究は、この仮説を検証し、さらに運動誘発性H3K27me3の上流因子を突き止めることで、「運動効果の個体差が生成されるプロセス」を解明することを目的とした。 運動トレーニングによるH3K27me3分布の変化と遺伝子応答性の関係、それらの残存についてマウス骨格筋を用いて検討した。単回運動に対する遺伝子の発現増加応答は、未トレーニング群に比べトレーニング群でより顕著だった。この遺伝子領域では、H3K27me3とH3K4me3のトレーニングによる濃縮が観られた。これに対して、トレーニングをやめた(脱トレーニング)群では、H3K27me3とH3K4me3分布が未トレーニングと同程度に低下しており、急性運動に対する遺伝子発現増加応答も観られなくなった。これらの結果から、運動トレーニングによる遺伝子の運動応答能の亢進は、運動誘発性H3K27me3に誘導される可能性が示唆された。一方で、運動トレーニングに伴う運動誘発性H3K27me3濃縮と運動応答能の亢進が脱トレーニングによって消失する可能性も示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
運動トレーニングによる遺伝子応答性の亢進・脱トレーニングによる応答性亢進の消失に果たすH3K27me3修飾の動態と役割が明確となったため、計画通り研究が進んでいると判断できる。また、運動誘発性H3K27me3の上流因子を突き止めるための実験も、必要なサンプリングがすべて完了し、解析も予定通り進んでいることから順調と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
運動誘発性H3K27me3の修飾酵素と予想されるEZH1をウイルスベクターを用いて骨格筋線維のみで過剰発現させた。単回運動もしくは運動トレーニングを施したマウス骨格筋サンプルを用いて①運動誘発性H3K27me3濃縮が加速しているか②遺伝子応答性が亢進しているか③筋適応が促進されているかについて、検証を進めている。
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Causes of Carryover |
理由:調達の方法の工夫などにより、当初計画より経費の使用が節約できたことにより生じた。
使用計画:必要な消耗品の購入に充てる。
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