2023 Fiscal Year Research-status Report
カルコゲン結合により構造制御したウレア触媒の創製と選択的分子変換への応用
Project/Area Number |
23KJ2069
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Research Institution | Kyoto Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
井上 拓美 京都薬科大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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Keywords | カルコゲン結合 / ウレア / 構造制御 / 酸性度 |
Outline of Annual Research Achievements |
種々のカルコゲン元素 (酸素、硫黄、セレン、テルル) を有する対称ウレアの合成を検討した。本研究では、ウレアのカルボニル基とその両側に配したカルコゲン元素との二重のカルコゲン結合で構造制御するコンセプトのもと行ったが、そのカルコゲン結合の構造制御への寄与をX 線結晶構造解析および DFT 計算により定量評価した。X 線結晶構造解析によりカルコゲン結合が期待されない酸素誘導体では、予想通りカルコゲン結合は形成されず、フラン環の酸素とカルボニル酸素が互い違いとなる配座が優先し、ねじれた立体構造を持つことが分かった。硫黄およびセレンを持つウレアについても精査し、いずれも二重のカルコゲン結合が形成され平面性の高い立体構造を持つことが分かった。また NBO 解析から硫黄では 3 kcal/mol、セレンでは5 kcal/molの安定化が見られ、カルコゲン結合の強さとして硫黄よりもセレンで強く働くことが示された。テルルを持つウレアは合成を達成したものの単結晶が得られておらず、現在各種溶媒中での再結晶化を検討中である。また UVスペクトルおよび NOE 測定を行うことで、カルコゲン結合による構造制御が結晶中だけでなく溶液中でも有効であることを示した。 さらにウレアを触媒として用いる反応の開発では、ウレアの酸性度が重要となるためpKa測定を行い、カルコゲン結合が酸性度に及ぼす影響を評価した。その強さとしてセレン(pKa=11.5)が最も強く、テルル(pKa=11.6)はセレンと同等、次いで酸素(pKa=12.1)、最後に硫黄(pKa=12.4)という結果を得た。これらのことは、カルコゲン結合が分子の酸性度を高めることを実験的に明らかにするものであり、カルコゲン結合の強さと酸性度との間に概ね相関があることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
種々のカルコゲン元素 (酸素、硫黄、セレン、テルル) を有する対称ウレアの合成および物性評価を行った。カルコゲン結合による構造制御への寄与に関しては、X 線結晶構造解析および DFT 計算により定量評価し、UVスペクトルおよび NOE 測定により結晶中だけでなく溶液中での有効性を確認した。またウレアを触媒として用いる反応の開発において重要となる酸性度(pKa)を測定し、それぞれのウレアの酸性度を調査するとともにカルコゲン結合が酸性度に及ぼす影響についても評価した。 またベンゾカルコゲノフェン(硫黄、セレン)の 3, 3’ 位にそれぞれ触媒活性部および分子認識部を導入したウレア触媒の創製に向けた検討を行った。 C3 位への臭素基を有するベンゾカルコゲノフェンと種々のアリールボロン酸との鈴木宮浦カップリング等を行うことで、ポルフィリン、チオキサントン、ナフトイミド基を側鎖として導入でき、いずれの側鎖においてもウレア前駆体となるアミン体までの合成を達成している。一方、非対称ウレアの合成においては任意のアミンをイソシアナートに変換し、異種のアミンと反応させることで得られるが、未だ再現性に乏しい問題に直面している。現在はこの問題を解決した非対称ウレアの効率的な合成法を確立し、その後その合成法に従い所望のウレア触媒の合成を検討予定である。 さらに、アルドール化やアセタール化などの化学反応を促進する非常に有用な触媒であるチオウレア触媒の開発に着手した。すなわち、ウレア分子において適応させたカルコゲン結合をチオウレアにも導入することで、触媒活性が高く構造制御されたカルコゲン元素を持つチオウレア触媒の創製および物性評価を検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
令和6年度では、カルコゲン元素(硫黄、セレン)を有する非対称ウレアの合成法を確立することで、触媒活性部および分子認識部を導入した分子認識型ウレア触媒の効率的合成を行う。合成したウレア触媒は X 線結晶構造解析から、カルコゲン結合による配座固定で触媒活性部と分子認識部の双方の配置が制御された期待通りの分子認識・反応場を形成しているか検証する。また光反応でラジカル的な C(sp3)-H 官能基化を触媒するチオキサントンを触媒活性部とし、長鎖脂肪酸を認識するアントラセンイミド基を分子認識部とするウレア触媒を合成し、飽和脂肪酸の β 位選択的イミド化の達成を目指す。またチオキサントンに適切に置換基を付すことで軸性不斉触媒を創製し、触媒的不斉反応にも展開する。 令和7年度では、触媒活性部としてポルフィリンマンガンまたは鉄錯体、糖認識部としてペリレンジイミド基を組み合わせたウレア触媒を合成し、無保護グルコースの位置選択的酸化や不飽和脂肪酸の位置選択的シクロプロパン化に挑戦する。さらに触媒活性部をポルフィリン鉄、マンガンまたはルテニウム錯体に、基質認識部をアントラセンイミド基に変換することで、飽和脂肪酸の位置選択的ヒドロキシ化や不飽和脂肪酸の位置選択的エポキシ化への展開が期待でき、令和6年度にて得られる知見と合わせてさらなる検討を行う。ここまでで得られた結果を取りまとめ、国内外学会での発表や学術雑誌への論文投稿を通して成果の発表を行う。
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Causes of Carryover |
カルコゲン結合による分子の構造制御への寄与を実証するため、種々の重溶媒を用いたNMR測定などを予定していたが、幸いにもX線結晶構造解析を行うことができたことで、当初予定していた物品費および消耗品費を削減でき、また分子構造の把握やカルコゲン結合の寄与および物性評価に至るまで、金銭的・時間的に効率よく実施することができたために次年度使用額が生じた。 次年度使用となった分は、キラル化合物となる不斉触媒の分離・分析に必要となるキラルカラム等の消耗品購入や光化学反応に用いる反応装置や種々の波長に対応するLED光源などの物品費にあて、さらに研究を推進していく予定である。
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