2023 Fiscal Year Research-status Report
育児放棄が惹起する社会的コミュニケーション障害の治療法創出
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23KJ2084
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
西堀 諒 同志社大学, 生命医科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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Keywords | 音声コミュニケーション / 社会的コミュニケーション障害 / 超音波発声 / 母子分離 / 実験心理学 / スナネズミ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、育児放棄が社会的コミュニケーション障害を惹起する神経メカニズムを解明し、その治療法を探求することである。育児放棄は成長後の精神疾患や社会的コミュニケーション障害の発症リスクを増大する。育児放棄のモデルとして、齧歯目を対象に仔と親を一定期間隔離する母子分離研究が行われている。母子分離によって精神疾患様の行動変化を引き起こすこと、向精神薬の投与でこれらの振る舞いが改善することが報告されているが、動物を対象とした社会的コミュニケーション障害に関する研究はほとんど行われておらず、発症の生理機構および有効な治療法や予防法は未だ不明である。この研究を可能にするには、音声コミュニケーションについてよく知られている動物を対象にするのが好ましい。そこで、豊富な発声レパートリーを有し、成獣間で絶えず音声コミュニケーションを行っているスナネズミを対象としている。 当該年度は母子分離が発声に及ぼす影響を幼獣期と成獣期で検討した。生後7日の幼獣を24時間親から隔離し、母子分離個体を作成した。幼獣スナネズミは巣や親から離れると超音波発声を行い、母獣の養育行動を誘発させることが知られている。そこで、幼獣スナネズミを5分間隔離し、超音波発声を記録した。結果、母子分離群は健常群と比較して発声回数が減少し、周波数構造が単純化した。次に、成獣に成長した母子分離個体を用いて、初対面の同性個体と出会った際の発声を記録した。結果、母子分離個体は健常個体よりも発声回数が増加した。加えて非攻撃的な行動に関連する発声の周波数構造が単純化し、攻撃的な行動に関連する発声の周波数構造が複雑化した。以上より、母子分離は幼獣~成獣期に渡って発声を変化させることが明らかとなり、音声コミュニケーションに影響を及ぼしている可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は行動実験を中心に進め、論文出版や学会発表などおおむね順調な成果が得られた。一方で、音声を発した個体の特定(音源定位)を可能にする装置の作成は機材の制約によりかなわなかったため、次年度注力する予定である。また、生理実験のセットアップを行い、母子分離が発声を変化させる因子の特定のための予備的検討も行った。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、音源定位を可能にする装置を導入し、行動と音声を同期した解析を行う予定である。また、染色実験や薬理実験から母子分離が音声コミュニケーション障害を惹起するメカニズムについて検討する。
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Causes of Carryover |
音源定位装置の実装を次年度に変更したことにより、当初より一部支出が減少した。次年度使用額は前述の装置実装に充てる。
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