2015 Fiscal Year Annual Research Report
物質構造科学の新展開 : フェムト秒時間分解原子イメージング
Project/Area Number |
24000006
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
谷村 克己 大阪大学, 超高圧電子顕微鏡センター, 特任教授 (00135328)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
那須 奎一郎 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 名誉教授 (90114595)
楊 金峰 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (90362631)
|
Project Period (FY) |
2013 – 2016
|
Keywords | 光物性 / フェムト秒時間分解 / 時間分解電子回析 / 時間分解電子顕微鏡 / 光誘起相転移 / 超高速キャリア緩和 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、物質機能の根源的理解の基礎を提供する物質構造決定を、超高速で変化する非平衡過程に対して達成する為、フェムト秒の時間分解能を有する時間分解原子イメージング手法を開発し、それを駆使した固体の超高速構造変化・相転移現象の研究を推進して、物質構造科学研究の新展開を目指している。研究4年目に当たる平成27年度は、以下の研究を推進した。 1. フェムト秒時間分解原子イメージング装置の開発研究 本研究のフェムト秒時間分解電子顕微鏡開発の基本方針である、①現有のMeV時間分解電子回折装置の原子イメージング測定装置への転生、②原子分解能を持つ電子顕微鏡にフェムト秒時間分解能を付与し時間分解原子イメージングを実現、に基づき、開発研究を大きく前進させた。①では、透過MeV電子顕微鏡の実証機試作を終了し、倍率1200倍での5μm空間分解イメージを獲得するに至っている。また、②に対しては、時間分解能200fs、空間分解能10Åの条件下で、VO2 TaS2結晶の光誘起相転移のドメイン動力学を解明する為の実験を可能にし、現在精力的に実験を継続している。 2. 凝縮物質系の超高速構造動力学の研究 超高速フェムト秒時間分解電子回折測定によって、相変化記憶材料GeSbTeの光誘起構造変化過程の研究を展開し、光励起によるアモルファスから結晶相への転移過程を初めて超高速に観測すると共に、固体の超高速構造動力学を駆動する励起電子系の超高速・非線形緩和過程を、フェムト秒時間分解2光子光電子分光を用いて系統的に研究した。エネルギーのみならず、運動量空間における状態変化の観測が可能なこの手法を最大限に生かし、高励起状態での励起電子波束の崩壊過程を系統的に解明した。 3. 励起物質系における新規秩序形成過程の理論的研究 実験的に発見した超高速での高励起状態での励起電子波束の崩壊過程の基礎を、物性理論的に解明すると共に、一昨年度に開発したレーザー誘起相転移過程の第一原理と分子動力学を組み合わせた大規模計算手法を用い、タングステン単結晶における光誘起構造相転移の初期過程に対する理論的研究を発展させ、non-thermal forceの重要な寄与を明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、超高速で変化する物質非平衡過程に対して、機能の根源的理解の基礎を提供する物質構造解明を実現する為、フェムト秒の時間分解能を有する時間分解原子イメージング手法を開発する事が主要な目的としている。その為の基も有効な方法として、本計画では、①現有の相対論的電子ビームを用いた時間分解電子回折装置を原子イメージング測定装置へ転生させる事、②原子分解能を持つ電子顕微鏡にフェムト秒時間分解能を付与し超高速時間分解原子イメージングを実現する事、の2つを設定し、研究を推進してきた。 新規の装置開発には、その特性決定、設計、試作・製作、を含めて長期の時間を要するが、研究開始以後4年間行ってきた開発研究の成果によって、今年度末までに、実際に時間分解原子イメージングの測定が可能な段階にまで達した。①の相対論的電子ビームを用いた時間分解電子回折装置の顕微鏡への転生においては、超短パルス高速電子ビームによるイメージングを実現する為の実証機を完成させ、未だ低倍率ではあるが、イメージングが可能な段階にまで達した。更に、②の単一フェムト秒パルス電子積算型の時間分解電子顕微鏡の開発も、イメージングの為の超高感度検出器の導入と、長時間積算の為の試料ドリフトを低下させる除振装置および低温試料ホルダーの導入によって、今年度、時間分解能200fs、空間分解能5Åのイメージングを達成した。研究計画の最終年度に当たる後1年間で、目的を達成する事はほぼ確実である。 これに加え、現有装置で研究遂行が可能な凝縮物質系の超高速構造動力学の研究及びその理論的研究でも、多くの重要かつ世界に先駆けた成果が得られており、現在までの達成度は、極めて順調であると評価できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究最終年度にあたる平成28年度においては、研究目的を成功裏に達成する為、以下の推進方策で研究を進める。 1. 繰返し型フェムト秒時間分解電子顕微鏡を用いた光誘起構造相転移動力学の研究の推進 今までの開発的研究によって、本時間分解原子イメージング装置を用いて、時間分解能200fs、空間分解能5Åの時間分解イメージングが獲得できるまでに至った。試料励起用のレーザー光の波長可変性や到達励起密度に限界があるものの、光誘起構造相転移が発生する励起条件下での時間分解原子イメージングの測定が可能になってきた。現在、本装置を用いて、TaS2、VO2や変化記憶材料Ge2Sb2Te5等の可逆的変化を示す相転移・構造変化現象を対象とした研究を推進している。この実験を更に精力的に推し進め、可能な限り早期に、光誘起相転移可能の主要な課題である、相転移発現時のドメインの消長、ドメイン間相互作用の解明を目指した成果の獲得を図る。 2. シングルショットイメージングに向けた時間分解電子顕微鏡の開発 フェムト秒MeV単一パルス透過型電子顕微鏡の試作機を用いて、今後拡大すべきレンズ系の特性評価、更には、シングルーショット原子イメージング実現のために必要な、パルスあたりの電荷量、単色性を再度正確に評価する作業を行う。これに基づいて、中間レンズおよび投影レンズを試作機に追加して倍率を拡大し、目標の空間分解能を実現し、シングルショット原子イメージングを目指す。 3. 凝縮物質系の超高速構造動力学の研究 フェムト秒時間分解光電子分光法を駆使し、光誘起相転移のトリガーとなる結晶励起電子系の超高速緩和過程を異なる物性値を有する代表的な物質系に拡大して、直接的知見に立脚した緩和過程に対する統一的理解を達成する為の研究を行う。特に、緩和過程を支配する電子格子相互作用と電子間相互作用の役割を明確にする為の研究を展開する。 4. 励起物質系における新規秩序形成過程の理論的研究 前年度からの研究を継続・発展させると共に、①光誘起相転移過程における電子系の新規秩序形成の動力学研究とその統一的理解の達成、②確立してきた第一原理計算と分子動力学計算を組み合わせた理論解析手法による半導体物質系における高密度励起下で発生するnon-thermal melting過程、を目指す研究を展開する。
|
Research Products
(32 results)