2016 Fiscal Year Annual Research Report
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24000009
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
藤田 誠 東京大学, 工学系研究科, 教授 (90209065)
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Project Period (FY) |
2013 – 2016
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Keywords | 自己組織化 / 単結晶構造解析 / ホストーゲスト化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
溶液ケージと結晶ケージを統合した化学の展開において、1. 自己組織化空間内の溶液化学、2. 自己組織化結晶空間内での化学、3. 生体分子を用いた新たな展開、の3つの項目で研究を進めている。まず、1. の自己組織化空間内の溶液化学においては、新しい自己組織化構造の創出を行った。まず、既存の溶液ケージを改良した、溶液カプセルも新たに合成し、配位結合特有の構造柔軟性を活かすことにより、高度に隔離されたナノ空間内へ様々な有機分子を包接できる溶液カプセルを創出した。さらに、人工系の自己組織化構造において、世界最大の分子構造の構築も達成した。90成分からなるM30L60組成、144成分からなるM48L96組成の球状錯体の合成(最大径8.3ナノメートル)にそれぞれ成功した。また2. の固相化学における研究では、結晶ケージへの包接を利用した微量化合物のX線構造解析(結晶スポンジ法)に関する研究をさらに推進した。その結果、他の分光法では区別のつかない海洋天然物エラテニンの絶対構造決定や、爆発性のオゾニドの不安定中間体構造のX線観察などに成功した。3. の生体分子を用いた新展開として、糖鎖やペプチド鎖を活用した新たな固相ナノ空間を創出した。これまでの疎水性の結晶空間と異なり、親水性の有機分子の包接に適した自己組織化空間であり、生体内で行われる溶液化学を固相化学へ転写できる可能性も広がりつつある。このように、溶液化学と固相化学を、ナノ空間を通じて結びつけるという本研究の目的が達成可能であるとの感触を得ている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまで、パラジウムケージを利用した溶液化学を、固相の結晶ケージへうまく展開することを順調に進めてきた。昨年度の研究では、既存のケージに留まらず、高度に孤立した空間をもつカプセル構造や世界最大の分子構造をもつ球状錯体などの構築に相次いで成功し、自己組織化を取り扱う溶液化学において、大きな進展が見られたといえる。また、結晶ケージを利用した固相化学においても、これまで開発してきた結晶スポンジ法を利用して、さまざまな天然物や不安定化合物の構造解析に成功し、本手法の学術的重要性を示すことに成功したといえる。さらに、既存の結晶ケージに留まらず、親水性の新たな結晶空間の創出にも成功した。したがって、総合的に、当初の計画以上に研究が進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
溶液ケージを大きく拡張した、球状錯体を利用してカスケード反応を検討する。酸・塩基反応や、酸化・還元反応を起こす官能基をそれぞれの別の球状錯体内に固定化し、ナノサイズでのサイトアイソレーションを実施する。これにより、一つの溶液中で同時に行うことができない、2つの反応を溶液状態で達成する。このような概念は通常は固体触媒で見られるが、本研究では完全の溶液系で実施することを目指す。また、溶液ケージを利用した光酸化反応も引き続き検討し、ステロイド類の位置選択的な酸化反応を、空間設計に基づいて実現する。続いて、結晶ケージの固体化学では、混合物を結晶ケージ内へ包接させる試みを進める予定である。結晶ケージ内に存在する、複数の分子認識点を利用し、混合物を精製することなく一度に複数の化合物のX線構造解析を実現し、より効率的な分析手法の確立を目指す。これにより、鏡像異性体過剰率の低い不斉有機化合物の絶対構造決定を実現する。そして、生体分子を模倣した新たな結晶空間に関する研究についても、新しい展開を目指して、糖やペプチドを骨格に組み込んだ配位子設計を進め、より豊富なサイズ、形状の結晶空間の創出を進める予定である。
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Research Products
(11 results)