2014 Fiscal Year Annual Research Report
マウス嗅覚系を用いて遺伝子-神経回路-行動のリンクを解く
Project/Area Number |
24000014
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
坂野 仁 福井大学, 医学部, 特命教授 (90262154)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西住 裕文 東京大学, 大学院理学系研究科, 助教 (30292832)
濡木 理 東京大学, 大学院理学系研究科, 教授 (10272460)
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Project Period (FY) |
2012-05-29 – 2017-03-31
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Keywords | 嗅覚神経回路 / 本能回路 / 学習回路 / 情動・行動判断 / 嗅皮質 / レヴィウイルス / 遺伝子改変マウス / チャネルロドプシン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題ではマウス嗅覚系を用いて、感覚入力情報がどの様に情動・行動の判断、即ち出力の為のdecision makingへとつながっているかを、神経回路レベルで明らかにする。 当グループでは最近、嗅球背側に位置する単一糸球の光刺激によってキツネの分泌する匂い物質(TMT)に対する恐怖行動(freezing)が人為的に誘導可能である事を見出した。我々は2007年に、嗅球背側D_<II>領域の後方に様々な天敵臭に対応する恐怖領野の有る事を報告した。今回は、光学的イメージングによってTMTで活性化される糸球を同定し、それにDiI色素を注入する事でTMTを検出する嗅覚受容体(odorant receptor : OR)を発現する嗅細胞を染色し、これらの細胞からTMT受容体遺伝子(OR^<TMT>)の単離に成功した。 我々は更に、OR^<TMT>遺伝子にチャネルロドプシン遺伝子をつないだノックイン(knockin : KI)マウスとOR^<TMT>遺伝子を欠失させたノックアウト(knockout : KO)マウスを作製してその行動を菊水健史研究室(麻布大・獣医)の協力を得て解析した。その結果、上記KIマウスは光照射によって頬ヒゲ(whisker)の動きを停止して体の動きを止めるfreezing反応を示す事が判明した。これは高等動物の主嗅覚系に於いて、単一糸球の刺激によって本能行動が誘導された最初の例である。ちなみにOR^<TMT>遺伝子のKOマウスでは、OR^<TMT>の機能をバックアップする糸球が複数個存在する為に、TMTによるfreezing反応は低下するものの完全には消失しない。 我々はまた森憲作研究室(東大・医)の協力を得て、光照射によって活性化された糸球に接続する二次神経、即ちmitral/tufted(M/T)細胞の神経活動を電気生理学的に解析し、これら細胞がTMTによる活性化の時と同じ発火パターンを示す事を確認した。また興味深い事に、同KIマウスの嗅皮質ではBNSTなどの恐怖領野が、TMTをかいだ時と同様に光照射によっても活性化されている事を観察した。 以上の実験結果は、単一糸球の光刺激により通常TMTによって引き起こされる天敵臭に対する恐怖反応を単一の二次神経や回路レベルで再現して解析するという、本研究課題で我々が目ざした当初の予定を実現したという意味で極めて重要な成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成26年度の進捗状況で特筆すべきは、恐怖行動を光刺激によって誘発する「嗅覚神経回路のgain-offunction」の実験に成功した事である。具体的には、キツネの分泌する天敵臭TMTに応答する糸球体にチャネルロドプシンを発現させ、薄く削った頭蓋骨を通してレーザー光を照射することにより、光刺激で恐怖(freezing)反応を誘発する事が可能となった。これは単一糸球体の光刺激による活性化を介して、二次神経以降の嗅神経回路の機能操作とその解析が出来る様になった事を意味し、当プロジェクトのみならず、情動・行動の作動原理を解明するdecision makingの研究一般に大きな可能性を拓いたという意味で重要な進展といえる。この論文は現在投稿準備中であり、また嗅覚二次神経に関する3つの論文も改稿中又は投稿中である。以上の成果により、当プロジェクトは当初の計画通り、もしくはそれ以上に進展したと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
残り2年間の研究推進方策についてはこれまでの計画に大きな修正や変更などはなく、計画通り遂行する予定である。当グループは2007年のNature誌に、嗅覚情報の価値判断は先天的(innate)な本能回路と記憶に基づく学習(learned)回路の二本立てで、情報入力の段階から独立かつ並行して行われる事を報告した。 Drosophilaなどハエの嗅覚系ではlateral hornで先天的本能判断が、mushroom bodyで学習依存的判断が下されると言われている。しかしながらマウスでは、二次投射先である嗅皮質のどこで入力情報に対する価値付けがなされているのかについて依然として不明な点が多い。今後は以下の実験によって、匂い情報に対するdecision makingがどこでどの様に行われているのかを明らかにする。 1) 先天的本能行動のdecision makingの解析 : 我々は既に天敵臭TMTに対する嗅覚受容体を同定し、ノックアウト(KO)やノックイン(KI)などの遺伝子改変マウスを作成した。今後は、チャネルロドプシンを介してTMTに反応する単一の糸球体を光照射によって刺激し、接続するM/T細胞が嗅皮質のどの領野に軸索を投射しているのかを、DiI色素やウイルスを用いたtracing法によって解析し、恐怖行動を誘導する神経回路を同定する。 2) 学習によって匂い情報に質感が付与されるメカニズムの解明 : 中立の匂いであるオイゲノール(EG)をマウスに嗅がせる時、同時に餌または電気ショックを与え、EGに対して快(attractive)もしくは不快(aversive)の質感を学習させる。その後再びEGを嗅がせた時に、嗅球及び嗅皮質で新たに活性化される領域をイメージングや組織免疫学的な手法を用いて同定する。 3) 本能判断と学習判断のbalancing機構の解明 : まずマウスに対し、腐敗臭のある所に砂糖が存在するという報酬学習を行う。その後、腐敗臭に応答する神経回路と、記憶中枢である海馬からの回路が統合される嗅皮質の領野を、1) に述べたのと同様なtracing法によって特定し、その部位に於ける細胞の応答性に変化が見られるかどうかを電気生理学的及び組織免疫学的手法を用いて解析する。 4) 特定の匂いによって活性化される神経回路の標識並びに光刺激による神経活動の操作 : 神経細胞が活性化された時に一過的に発現量が上昇するArc遺伝子のプロモーターの下流に、Creリコンビナーゼ遺伝子を挿入した遺伝子改変マウスを作製する。このマウスの嗅球、あるいは嗅皮質の特定の領野にアデノ改変ウイルスを感染させ、Cre依存的に蛍光タンパク質あるいは光刺激依存性チャネルを発現させる。その結果、特定の匂いによって活性化される一連の神経回路の標識、及び、光刺激による神経活動を操作することが可能となり、本研究課題を更に大きく進展させる事が出来る。
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Research Products
(15 results)