2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
24223003
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
渡辺 努 東京大学, 経済学研究科, 教授 (90313444)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
青木 浩介 東京大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (30263362)
阿部 修人 一橋大学, 経済研究所, 教授 (30323893)
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Project Period (FY) |
2012-05-31 – 2017-03-31
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Keywords | マクロ経済学 / デフレーション / 金融政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
わが国では過去10年以上にわたって,政策金利がゼロの下限に張りつく中で,物価が緩やかに下落するデフレーションが進行している。同様の現象は欧米諸国でも起きつつある。本研究では,デフレに代表される経済の「貨幣的側面の変調」とGDPトレンド成長率の低下や金融機能の低下などの「実物的側面の変調」が多くの国で同時発生していることに着目し,その相互連関を解明する。
本研究は,(1) 定型的な事実の整理を行う,(2) その上でモデルの構築と検証を行う,(3) 採択されたモデルを用いて政策効果に関するシミュレーション分析(実際には採用されなかった政策も含めてその効果を計測する)を行う,という3段階で研究を進める。平成25年度については,「事実整理」班は,物価指数の計測精度に関する研究を継続するほか,米国大恐慌期のデフレとの対比で日本の長期デフレの特徴を明らかにする作業を行った。また,消費者の物価予想に関するアンケート調査を実施した。「モデル構築・検証」は,モデル仮説の構築作業を行った。プロジェクトの連携研究者としては,塩路悦朗(一橋大学,事実整理とモデル構築),中嶋智之(京都大学,モデル構築),廣瀬康生(慶應義塾大学,事実整理とモデル構築),戸村肇(東京大学,モデル構築)が従事した。また,研究協力者としては,西村清彦(東京大学,ゼロ金利下における金融政策手法の研究),川口康平(London School of Economics,企業の価格設定行動に関する研究),渡辺広太(中央大学,スキャナーデータを用いた物価指数の研究)が従事した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本プロジェクトではデフレの仕組みについて,以下の知見を得るとともに,内外に広く発信することができた。第1に,我が国のデフレ率はCPI前年比でみて精々1%程度であり,非常に緩やかな物価下落である。これは,我が国の消費者物価の統計上の性質を反映している面もあるが,スキャナーデータを用いてTornqvist指数のような最良指数で測ってもデフレ率は小さい。第2に,緩やかなデフレの背後には,趨勢的物価上昇率(trend inflation)がゼロに近づくにつれて,企業の価格更新の頻度が低下したという事情がある。ゼロ近傍の趨勢的物価上昇率の下では,企業は,価格更新に伴う費用(メニューコスト)を払いたくないので,「価格据え置き」を選択する。こうした現象が生じることは,理論的には指摘されていたが,実際のデータで確認したのは本プロジェクトが世界で初めてである。第3に,価格据え置き現象は,いったん始まると抜けるのが難しいという意味で,「罠」の性質をもつ。すなわち,価格据え置き現象がいったん広まると,様々なショックが個々の企業の価格に反映されにくくなるので,ショックに対する物価の反応が鈍くなる(つまり,総供給曲線=フィリップス曲線が平坦化する)。政策ショックも例外ではなく,価格据え置き現象がいったん広範化すると,金融政策で物価を制御するのが難しくなる。
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Strategy for Future Research Activity |
本プロジェクトの当初計画では,24年度からの3年間で長期デフレに関する事実整理とモデル構築・検証を行い,最後の2年間(27年度と28年度)で政策シミュレーションを行うことを計画していた。事実整理とモデル構築・検証については当初の計画を着実に実行できている。最後の2年間に予定していた政策シミュレーションについては,これまで行ってきた事実整理とモデル構築・検証の研究成果を土台にして実行していく予定であり,その点に変更はない。物価予想に関するもうひとつの論点は,家計の予想が変化したとして,それが商品の購買や投資行動の変化につながるかということである。理論モデルでは,物価予想が変化すると,実質利子率の変化などを通じて行動の変化が起きるはずであり,それがデフレ脱却の原動力となると考える。この仕組みが実際に働いているかをみるために,インフレ予想を持つようになった家計が,(ア)日常的な買い物行動を変えているか,(イ)不動産や車などの耐久財の購入を急いでいるか,(ウ)名目債券から実質債券へ,自国通貨建てから外貨建てへと,投資ポートフォリオを変更しているか,といった点をアンケート調査で調べていく。
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Research Products
(54 results)