2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
24223003
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
渡辺 努 東京大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (90313444)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
青木 浩介 東京大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (30263362)
阿部 修人 一橋大学, 経済研究所, 教授 (30323893)
中嶋 智之 京都大学, 経済研究所, 教授 (50362405)
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Project Period (FY) |
2012-05-31 – 2017-03-31
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Keywords | マクロ経済学 / デフレーション / 金融政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,平成24年度から平成26年度までの3年間で,合計53本の論文を作成してきた。また,本研究に深く関連する書籍として,『長期デフレの解明』を日本経済新聞社から5月に刊行を予定しており,脱稿済みである。この書籍は研究代表者の渡辺努が編著者となって作成されたもので,研究分担者の阿部修人、連携研究者の塩路悦朗の2名も章の著者として参加している。さらに,産業財産権としては,物価指数の算出に商品の新陳代謝(新商品の参入と旧世代の商品の退出)の影響を反映させるためのアルゴリズムを渡辺が中心となって開発,平成26年11月に特許出願した(特願2014-231511「物価指数推定装置,物価指数推定プログラム及び方法」発明者:渡辺努・渡辺広太)。
本研究ではデフレの仕組みについて,ミクロ価格データを用いた分析を行い,以下の知見を得た。第1に,我が国のデフレ率はCPI前年比でみて精々1%程度であり,非常に緩やかな物価下落である。スキャナーデータを用いてTornqvist指数のような最良指数で測ってもデフレ率は小さい。第2に,緩やかなデフレの背後には,趨勢的物価上昇率がゼロに近づくにつれて,企業の価格更新の頻度が低下したという事情がある。ゼロ近傍の趨勢的物価上昇率の下では,企業は,価格更新に伴う費用を払いたくないので,「価格据え置き」を選択する。こうした現象が生じることは,理論的には指摘されていたが,実際のデータで確認したのは本研究が世界で初めてである。第3に,価格据え置き現象は,いったん始まると抜けるのが難しいという意味で,「罠」の性質をもつ。すなわち,価格据え置き現象がいったん広まると,様々なショックが個々の企業の価格に反映されにくくなるので,ショックに対する物価の反応が鈍くなる。政策ショックも例外ではなく,価格据え置き現象がいったん広範化すると,金融政策で物価を制御するのが難しくなる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本プロジェクトではデフレの仕組みについて,ミクロ価格データを用いた分析を行い,以下の知見を得た。第1に,我が国のデフレ率はCPI前年比でみて精々1%程度であり,非常に緩やかな物価下落である。第2に,緩やかなデフレの背後には,趨勢的物価上昇率(trend inflation)がゼロに近づくにつれて,企業の価格更新の頻度が低下したという事情がある。ゼロ近傍の趨勢的物価上昇率の下では,企業は,価格更新に伴う費用(メニューコスト)を払いたくないので,「価格据え置き」を選択する。こうした現象が生じることは,理論的には指摘されていたが,実際のデータで確認したのは本プロジェクトが世界で初めてである。第3に,価格据え置き現象は,いったん始まると抜けるのが難しいという意味で,「罠」の性質をもつ。すなわち,価格据え置き現象がいったん広まると,様々なショックが個々の企業の価格に反映されにくくなるので,ショックに対する物価の反応が鈍くなる(つまり,総供給曲線=フィリップス曲線が平坦化する)。政策ショックも例外ではなく,価格据え置き現象がいったん広範化すると,金融政策で物価を制御するのが難しくなる。
研究成果はBIS(国際決済銀行)の総裁会議などで紹介されるなど,国際的に関心を集めている。国内においても,本プロジェクトの頑健な理論と実証に基づく研究成果対する関心は高まっており,デフレ脱却に向けた日銀や政府の政策形成に本プロジェクトの知見が活かされている。また,物価指数の計測誤差に関する研究の副産物として公開を開始した東大日次物価指数にも注目が集まっており,ミクロ価格データを保有する企業から,公共性の高い用途にデータを使って欲しいとの要請が相次いでおり,残り2年間で,長期デフレの解明に向けた分析作業をさらに加速させるための基盤が整ってきている。
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Strategy for Future Research Activity |
本プロジェクトでは、これまでに長期デフレに関する事実整理とモデル構築・検証を着実に実行できている。最後の2年間(27年度と28年度)では政策シミュレーションを行うとともに以下の検討を行う。これまでの研究で浮き彫りになった重要なトピックは物価予想の形成プロセスである。デフレからインフレへと移行する局面で期待がどのような役割を果たすのか,期待の変化がいかにして生じるのかは,理論と実証の両面で重要な論点である。また,我が国やユーロ圏などデフレで苦しむ国でそこからの脱却方法を議論する際にも避けて通れない論点である。物価予想については,当初の研究計画でも,アンケート調査を行うことを計画しており,2014年3月と2015年3月の2度に渡ってアンケートを実施した。その結果を踏まえて,今後は,家計が物価予想を形成する仕組みについて調べていく予定である。
なお,スキャナーデータについては,「11.現在までの達成度」で記したように,複数の企業から新たにデータの供給を受けており,残りの2年間でデータ解析を進めていくことを計画している。その作業を効率的に進めるために,プロジェクトの分析スタッフとして新たにRA3名を雇用する予定である。
残り2年の期間で,当初予定していた作業に加え,デフレからの脱却の局面において物価予想の果たす役割を分析することにより,当初の研究目的を高い水準で達成することが可能と見込まれる。
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Research Products
(44 results)