2012 Fiscal Year Annual Research Report
次世代芳香族科学に向けた新化学、新骨格、新理論、新機能、新技術の創出
Project/Area Number |
24229001
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (S)
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
内山 真伸 東京大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (00271916)
|
Project Period (FY) |
2012-05-31 – 2017-03-31
|
Keywords | 芳香属性 / カルボランアニオン / σ芳香属性 |
Research Abstract |
本年度は、『新しい芳香族反応の開発』としてσ芳香属性を有するカルボランアニオンの修飾化反応を開発した。カルボランアニオンは、1個の炭素と11個のホウ素からなる正二十面体構造を有するクラスター分子であり、分子全体として1価の負電荷を帯びている。この負電荷はσ結合を介して分子全体に分散しているため、化学的・熱的・光化学的に高い安定性を有し、"三次元の芳香族"と形容される。その特異な性質から新たな機能性分子として応用が期待されているが、その報告例は極めて乏しい。その最大の原因は合成化学が未発達なためである。特にカルボランアニオンの炭素頂点上での芳香環導入反応は未だ報告例がない。そこで、炭素頂点上における汎用性の高い芳香環導入反応の開発に着手した。 p-ヨード安息香酸メチルを求核剤として用い、パラジウム触媒存在下、種々の金属を炭素頂点上に導入したカルボランアニオンとのクロスカップリング反応を検討した。π芳香属性化合物のクロスカップリング反応で汎用される亜鉛やホウ素を導入した場合では反応は全く進行しなかった。この原因はカルボラン骨格に由来する特異な立体的・電子的な要因にあると考えた。詳細な検討の結果、一価銅を用いた際に副反応を伴うこと無く目的とするクロスカップリング反応が進行することを見いだした。また、パラジウム触媒についても検討することで、室温という温和な条件下で効率的に反応が進行することを見いだした。続いて基質一般性を検討したところ、様々な官能基を有する芳香環が導入可能であることを見いだした。 本研究で開発した反応を用いて、イオン液晶への応用や新規ファーマコアとしての応用研究についても行っている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに『新しい芳香族反応の開発』として、σ芳香属性を持つとされるカルボランアニオンに着目し、これまで未発達であった修飾化反応を達成した。これにより種々の置換基を有するπ芳香属性分子とσ芳香属性分子を直接結合させることが可能となった。理論化学を用いて『芳香族の起源にせまる』研究についても分光学などと合わせてより深い理解が可能になると考えられる。また、π芳香属性分子を用いる反応開発においても新たな知見を見いだしている。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き合成化学・理論化学を中心に展開し、『新しい芳香族反応の開発』『芳香族の起源に理論化学でせまる』『金属含有芳香環の創製』『低HOMO-LUMOギャップ芳香環のテーラーメード設計と合成』を合成化学・理論化学・物理化学・分光学を駆使して積極的かつ同時に推進し、芳香族科学の新たな展開に挑戦します。 ・新しい芳香族反応の開拓 今年度までに得られた知見をもとに、1)反応応用性の拡大 2)反応の高効率化 3)新規芳香族置換基直接 導入反応の開発を目指した、(A)超強酸中で起きる有機分子の活性化によって生成する高度に電子不足なカチオン分子を利用する研究と、(B)強塩基性条件下生成する有機金属アート錯体を用いる反応の研究という正負反対の電荷を複数有する活性有機分子種の関与する新反応の開発と芳香族化合物合成反応としての応用を研究します。 ・低HOMO-LUMOギャップ芳香環のテーラーメード設計と合成 化合物の安定性を損なわないように、LUMO準位を効率的に下げることによって狭いHOMO-LUMOギャップを実現する分子設計を基に、最近我々が合成したアズレノシアニンと芳香属性ヘミポルフィラジンは熱・光安定性に優れたフタロシアニン系近赤外色素であることを報告している。また、フタロシアニンをベンゼン環の部分のみ重ねることによってスリップドスタック型ダイマーを合成すると近赤外光を吸収する色素になることを明らかにした。これらをターゲット分子とし、周辺置換基、中心金属などを利用して、目的(光電変換材料、近赤外蛍光色 素)に適した性質を付与すると同時に、新たな近赤外色素設計に向けた理論化学的・物理化学的なアプローチを試みます。
|
Research Products
(2 results)