2014 Fiscal Year Annual Research Report
病的肺リモデリングメカニズムの解明に向けたマルチスケールメカニクス解析
Project/Area Number |
24240073
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
和田 成生 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (70240546)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮崎 浩 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (00263228)
世良 俊博 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40373526)
伊井 仁志 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (50513016)
越山 顕一朗 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (80467513)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | バイオメカニクス / 肺呼吸 / マルチスケールメカニクス / マイクロCT / 数値流体解析 / 流力音 / 呼吸音 / リモデリング |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度までに開発したCT画像から肺細葉を抽出するアルゴリズムを用いて,5頭のマウス肺から得られた50個の肺細葉に対して,体積や表面積,気道の分岐数,直径,長さなどの統計学的データを取得した.また,一本の終末細気管支につながる複数の肺細葉から形成される5つのクラスター構造を調べ,ガス輸送面から考えると不利な条件となる遠位部に体積の大きな肺細葉が存在することがわかった.しかし,一次元拡散モデルを適用して各肺細葉への酸素輸送能を評価した結果,正常な呼吸状態においてはいずれの肺細葉でもガス交換機能が維持されることが示された.一方,ボロノイ領域分割と最適経路探索法を組み合わせた肺細葉の不均一な内部構造を表現する数理モデリング手法を確立し,これらの計測データに基づいた肺細葉の内部構造の再現を可能にした. 医用画像に基づくイメージベーストシミュレーションでは,気道および胸郭による拘束を考慮した解析を行い,内部構造の不均一性に加え,これらの拘束によっても肺内部に不均一な変形場が形成されることがわかった.また,肺組織の変形に伴う細胞の力学状態を推定するために,計測と計算力学シミュレーションのデータ同化手法を開発した.そこでは,基材に埋め込んだビーズの移動から接着細胞の牽引力を推定する逆問題解析を行い,適切に牽引力を推定するための測定条件を明らかにした.また,引張荷重下における細胞膜の強度や安定性を明らかにするために,実際の細胞膜に近いコレステロールを含有したリン脂質二重層膜を伸展させる分子動力学シミュレーションを行った. この他,肺音の発生および伝播解析では,空気層,粘膜層および気道壁の固体層からなる気道内の流れや音響伝播の数値シミュレーションを行った.また,動物実験および気道の単純分岐モデルや小児気道の実形状モデルを用いた実験により,気道内で発生する流体音の基本特性や音源を明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り,肺細葉の詳細な3次元形態計測と,不均一性を有する肺細葉の形態モデルの構築手法の確立により,肺のミクロおよびマクロな力学場の解析が可能となった.気道系末梢に位置する肺細葉の構造は,報告されているデータ数が少なく不明な点が多かったが,本年度は計測のサンプル数を増やすとともに,その集合体としての構造を明らかにすることにより,肺細葉内部の構造と機能との関係を議論できるようにした.これほど多くの肺細葉やその集合体の形態はこれまでに報告されておらず,得られた結果は肺細葉の解剖学的特徴を理解する上で極めて貴重なデータである. また,これらの結果と昨年度までに提案した細胞スケール,分子スケールのモデリングとを統合することにより,肺内部のマルチスケールな力学環境を詳細に再現できようにした.特に本年度は,肺組織の変形に伴う発生する細胞牽引力を推定するための計測と計算力学シミュレーションのデータ同化手法を確立し,肺のマクロな変形から細胞レベルの力学状態を推定し,それに対する細胞の応答について議論できるようになった.さらに,病的肺リモデリング現象としては,気管支喘息にともなう気道リモデリングに着目し,実験および数値流体解析により,気道の狭窄や肥厚と気流音の発生との関係解明を進めた.リモデリングにより生じる気道性状の変化と異常呼吸音との関係が明らかになれば,喘息発作の予兆をとらえる新しい聴診手法の提案につなげられる.
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Strategy for Future Research Activity |
CT計測による肺細葉の形態計測は引き続き実施し,さらなるデータの収集を目指す.特に,肺気腫など病的肺の計測も実施し,正常肺との相違を明らかにする.これと数理モデリングおよび計算力学解析を組み合わせることにより,肺細葉の構造のばらつきがガス交換機能の分布にどのように反映されるのかを明らかにし,物理現象を介した肺細葉の構造と機能との関係解明を試みる. 肺のガス交換機能には肺循環系の構造も関与しており,肺循環血管系の詳細な形態計測や血流およびそれにガス交換モデルの構築が必要である.肺循環の形態計測はすでに開始しているが,まだ十分な結果が得られていない.今後も引き続き,自作のマイクロX線CT装置で肺循環系の計測も行い,血流とガス交換のモデリングと解析を進める. 肺組織と細胞の変形解析においては,開発したデータ同化手法を用いて,細胞力学実験と計算力学シミュレーションを組み合わせたアプローチでモデルの妥当性を示していく予定である.また,これらのモデルを統合したマルチスケールシミュレーションを実行し,肺全体のふるまいから細胞レベルの力学状態を帰納的に同定するアプローチも取り入れていく予定である.なお,細胞力学モデルの開発と並行して,肺上皮細胞を用いた力学実験も計画していたが,動物肺からのI型およびII型肺胞上皮細胞の単離が難しく,モデルの検証やパラメタの同定までには至っていない.今後は文献や過去の実験結果を参考にするなどして対応していく予定である. 呼吸音解析に関しては,実形状モデルと単純化モデルを用いた実験と数値流体シミュレーションを行い,呼吸音の発生メカニズムと伝播特性を明らかにしていく.これと同時にこれまでに行った動物実験の結果を分析し,気管支喘息による気道リモデリングにより,どのような呼吸音の変化が現れるのかを工学的に解明し,喘息の予兆を検知する臨床研究に応用する.
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Research Products
(17 results)