2012 Fiscal Year Annual Research Report
DNAバーコーディングを適用したユスリカ科昆虫の水質指標性と多様性の研究
Project/Area Number |
24241078
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (A)
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Research Institution | National Institute for Environmental Studies |
Principal Investigator |
高村 健二 独立行政法人国立環境研究所, 生物・生態系環境研究センター, フェロー (40163315)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
今藤 夏子 独立行政法人国立環境研究所, 生物・生態系環境研究センター, 主任研究員 (10414369)
平林 公男 信州大学, 繊維学部, 教授 (20222250)
河合 幸一郎 広島大学, 生物圏科学研究科, 教授 (30195028)
上野 隆平 独立行政法人国立環境研究所, 生物・生態系環境研究センター, 主任研究員 (60168648)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ユスリカ / DNAバーコーディング / 生物多様性 / 水質指標 / 分子系統 / バーコードギャップ / DNAバーコード / COI遺伝子 |
Research Abstract |
形態的に完全なユスリカ標本をため池・湖沼・河川から60種採集した。378標本についてDNAバーコーディングに用いる種固有DNA塩基配列(DNAバーコード)をCOI遺伝子領域で決定し、形態的特徴に基づく種名判別により47種のDNAバーコードを得た。ただし普通種のヤマトユスリカ・ウスイロユスリカ・カスリモンユスリカではDNAバーコードが大きく違う標本が種内から見つかり、形態的特徴との不一致があきらかとなった。普通種が多く含まれるユスリカ属の標本について、このDNAバーコード差異(バーコードギャップ)を遺伝的分岐度(Kimuraの2変数法(K2P)値)にて数値化したところ、平均遺伝的分岐度は種内で2.6%、種間で15.8%であった。国際的データベース所載のDNAバーコードも加えて標準化したところ、種内で2%、種間で15%であった。種内・種間の間で分岐度の重なりはあるが、10%以下にかなり明白な隔たりがあるため、同種・異種を区分するための基準となる可能性が示された。 ため池では当初予定の10面より多い、水源・集水域土地利用・水生植物相が異なる20面で春・秋2回の採集を行った。湖沼では栄養段階の異なる3湖沼:本栖湖(貧栄養湖)・木崎湖(中栄養湖)・諏訪湖(富栄養湖)において、沖帯を中心に底生動物相の調査を行った。木崎湖ではヤマトユスリカ、本栖湖ではオオナガスネユスリカ、諏訪湖ではオオユスリカといった湖沼環境指標として重要な種の分布と現存量を重点的に調査した。河川では西日本各地の46水系52地点においてユスリカ幼虫を含む底質サンプルを採取し飼育羽化により、少なくとも23属40種の雄成虫標本を収集した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
DNAバーコーディングの基礎試料となるユスリカ雄成虫標本は目標の普通種100種に対して60種に達し、順調に収集が行われた。種判別基準となるDNAバーコードも47種と順調に情報蓄積された。形態的に同種とされる標本間で大きなバーコードギャップが見つかったため、バーコードギャップの傾向評価を行い、同種・異種の区分基準となる可能性が見いだされた。 ため池においては1年10面の調査目標のところ20面で調査が実施できたため、十分な量の試料が得られた。湖沼では、水質指標性調査方法論の確立と、諏訪湖のユスリカ属生息種(オオユスリカを含む)の実態を再検討する道筋がついた。また、栄養段階の異なる湖沼のユスリカ群集も一通り採取できたので、今後成虫の採集調査を充実することによってその解析の目途がつきつつある。河川では、中国地方河川にとどまらず、広く西日本域にてDNAバーコード取得に使える標本が収集できたため、種同定基準整備と水質指標検討の両面において進展があった。
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Strategy for Future Research Activity |
ユスリカ標本採集はため池・湖沼・河川で並行して進める。特に、H24年度よりも限定された、あるいは未検討の環境条件にてDNAバーコード未知種採集と種組成調査を強化する。平成24年度のDNAバーコード解析によって形態基準では判別の難しい種の存在を確認したため、形態だけでなく生息場所・生態も精査して種判別のための情報を追加する。とくに普通種で形態同定の困難な種については問題解決のための調査を優先的に進める。 ため池では平成24年度採集試料から群集組成解析を行い環境条件との関連を分析する。湖沼では、すでに採集された幼虫標本の種同定を確実にするために、雄成虫を採集して種名を決定する。湖沼深底帯における幼虫調査と並行して、成虫を得るためには、成虫の羽化期に近い春期に幼虫調査を実施する。栄養段階の異なる湖沼をさらに複数箇所、調査を行い、水質指標生物としてのユスリカ類の知見をさらに積み重ねる。河川では、環境条件と生息量との関連を調べるための定量サンプルにおいて飼育羽化で得られる成虫群集のサイズが著しく異なるため、川床型、調査コドラート・サイズ等について標準化を検討する。 平成24年度の研究により解明が進んだユスリカ種間の分子系統関係、DNAバーコードの種内・種間差異、形態では区別の困難であった隠蔽種の存在について優先して論文化を進める。
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Research Products
(9 results)