2012 Fiscal Year Annual Research Report
先端技術を用いた東アジアにおける農耕伝播と受容過程の学際的研究
Project/Area Number |
24242032
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (A)
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
小畑 弘己 熊本大学, 文学部, 教授 (80274679)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
百原 新 千葉大学, 園芸学研究科, 准教授 (00250150)
宇田津 徹朗 宮崎大学, 農学部, 教授 (00253807)
木下 尚子 熊本大学, 文学部, 教授 (70169910)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | コクゾウムシ属甲虫 / 家屋害虫 / 土器圧痕 / 韓国農耕史 / 国際情報交換(韓国) / 縄文時代 / 突帯文土器 / 乾燥地農耕 |
Research Abstract |
本年度は、青森県三内丸山遺跡、宮崎市本野原遺跡など縄文時代の遺跡における圧痕調査において、コクゾウムシ属甲虫を含む家屋害虫の圧痕を多数検出することができた点が大きな成果であった。これはこれまで生体化石としては検出しにくかった家屋害虫が土器圧痕として残りやすいことを証明したもので、土器製作の環境や土器づくりに対する先人の意識についての基礎的な資料を得ることができた。これらの成果を受けて、低湿地遺跡から出土する昆虫や種実の生体化石と台地上の遺構から出土する炭化種実、それらと土器圧痕として検出される昆虫や種実の性質の違いについての論考をまとめた。さらに土器づくりの環境の中でどのようにして圧痕が残るのかについても論考を発表した。 沖縄での調査では弥生時代~古墳時代相当期の野生雑草の種実を検出するにとどまったが、徳之島面縄貝塚において縄文時代後期相当期のコクゾウムシ属圧痕を検出することができた。コクゾウムシは五島列島の中島遺跡から縄文時代後期例を検出しており、九州北西部の島嶼地域にも存在することが明らかになった。 さらに、韓国での圧痕調査によって、韓国最古および最古級のキビ・アワ資料を検出し、これまで考えられていた年代より1000年~1500年古い時期に華北型の乾燥地農耕が朝鮮半島南部まで拡散していた事実を明らかにし、学会の注目を集めた。この成果は韓国における東三洞貝塚および飛鳳里遺跡の発掘調査報告書の中で公表された。これ以外に凡方貝塚においても新石器時代初期の雑穀資料を検出しており、今後、韓国農耕史の書き換えが必要と思われる。 縄文時代晩期~弥生時代早期の資料について福岡市・熊本市の複数遺跡において圧痕調査を行い、イネ以外にアワ・キビを検出している。 また、これまで検出した圧痕およそ1300点を再度点検し、再同定を行った。この結果については、本年度報告書を作成予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
土器圧痕調査に関しては、課題の一つとして設定した縄文時代前半期の農耕資料およびコクゾウムシ属甲虫の進化過程に関する資料を多数検出し、資料を充実させることができた。コクゾウムシ属の家屋害虫化とその証明についても、昆虫(生物)学の理論の援用と実験によって、現在順調に研究が進行している。稲作農耕受容期の圧痕については、西北~中部九州において調査を実施し、予想通りの成果を得ることができた。琉球列島においては調査件数は少なかったが、調査に着手し確実に資料を得ている。また、韓国における調査においても最古級の雑穀資料を得るなど、充実した成果を得ている。この点において、圧痕調査に関しては達成度は9割と考えている。 また、圧痕学の理論と方法論に関しても2本ほど論文をまとめることができ、さらなる問題点の絞りこみができている。 ただし、課題の一つとしたイネプラントオパールの検出作業は調査可能な良好な遺跡資料の選定ができなかったため、来年度の課題となった。さらに、CTスキャンによる圧痕の調査は数例を実施したのみである。今後圧痕成因究明の基礎資料として調査をさらに邁進させる必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題の推進方策は大きく以下の3点である。 ①韓国における新石器時代の農耕資料の充実。新石器時代前期資料の調査によって雑穀栽培の広がりを確認するとことと、早期資料の調査によってそれがどこまで遡及するのかを確認したい。 ②コクゾウムシ属甲虫の家屋害虫化の理論構築のため、圧痕資料の増加と現生コクゾウムシの実験飼育を行い、論文をまとめる。 ③圧痕資料学の理論構築のために、現在進行中の縄文時代後期の1遺跡の圧痕調査を継続して徹底的に実施し、圧痕調査の方法についての論文をまとめる。予想される調査量が300000点を超えるため、来年度の調査の主軸はここに置きたい。よって、CTなどの機器を用いた圧痕調査については、③の圧痕調査の方法モデルへの応用としての使用を概念化するにとどめ、理想的な検出法の開発については次々年度以降に延期したい。
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Research Products
(28 results)