2014 Fiscal Year Annual Research Report
日本の雇用の非正規・正規間移行に関する実証的・実験的研究
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24243035
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
照山 博司 京都大学, 経済研究所, 教授 (30227532)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松島 斉 東京大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (00209545)
神林 龍 一橋大学, 経済研究所, 准教授 (40326004)
玄田 有史 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (90245366)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 非正規雇用 / 雇用調整 / 労働力フロー / 経済実験 / 国際研究者交流 |
Outline of Annual Research Achievements |
「毎月勤労統計調査」および「雇用動向調査」による国際共同研究を論文としてまとめた.そこではリーマン・ショック時の雇用変動を入職と離職に分解したうえで,1997年のアジア危機時の雇用変動と比較し,リーマン・ショック時の雇用変動が予想よりも小さかった理由として,雇入れが比較的容易になっていたことを指摘した.リーマン・ショックのために増えた離職を補うだけの入職があり,その結果,失業率の上昇が抑えられていたというメカニズムが観察された. 「就業構造基本調査」による研究では,とくに東日本大震災に象徴される大規模な外的ショックがもたらす影響を分析し,派遣労働者が震災により離職や休職を強いられる傾向が強いこと,震災や原発事故により避難・転居を強いられた場合ほど,無業状態の固定化が生じやすいことを明らかとした. 本科研費で実施した「正社員以外の経験と転職に関するアンケート調査」を用いた研究の一部を論文としてまとめた.そこでは,非正社員での就業時の業務内容や勤務地のフレキシビリティがその後の正社員就業へつながるかを検討し,非正社員での就業時の職務経験の評価は,フレキシブルで多様な経験が重視されているというよりは,ある特定職務へ習熟のほうが重要とされている可能性を示唆した. 雇用における差別に関する実験については,本年度までに行ってきた検討により,繰り返しゲームを用いた長期関係の形成に関する実験が有用との結論を得た.実験実施に向けて,労働マッチング繰り返しゲームの実験計画及び実験用プログラムの作成を行った. 3月に東京において国際コンファレンスTrans Pacific Labor Seminarsを開催し,Harvard大学のRichard Freeman教授等,国内外の研究者30名の参加を得て,就業形態の多様化に伴う政策的な対応について研究討議を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「毎月勤労統計調査」,「雇用動向調査」,「労働力調査」,「就業構造基本調査」による研究については,本年度までに当初の研究計画に沿ったデータの統計解析を完了し,現在,それらに基づく分析が進みつつある.その一部は,本科研費メンバーによる論文“The Japanese Labour Market during the Global Financial Crisis and the Role of Non-standard Work" (by Hijzen, Kambayashi, Teruyama and Genda)としてまとめられた.また,平成25年度末に実施した非正社員及び正社員の経験と転職に関するアンケート調査の分析も順調に進み,一部を論文としてまとめている. 基盤研究(B)「関係指向性と長期パフォーマンス」(代表:北川章臣)と協同で,リクルートワークス「ワーキングパーソン調査」等を利用して,正規・非正規就業の視点からの労働市場の二重性の実証分析を行う計画を新規に追加して実施し,その成果を研究書として出版する予定である. 労働市場の実験研究については,繰り返しゲーム理論に基づく長期関係成立の実験をデザインするという発想が新たに生まれ,実施準備に取り掛かることができた.労働市場設計への応用を見据えた入札制度の理論と実験の考察も継続している. 以上から,研究計画は順調に進展していると判断する.
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Strategy for Future Research Activity |
「毎月勤労統計調査」と「雇用動向調査」のデータ解析結果の検討を継続し,労働時間と雇用の同時調整メカニズムを中心に研究を進める.なお,現時点での分析期間が2009年までであるため,その後の経済動向の変化を鑑みて,必要と判断した場合には,最新調査まで含めた「毎月勤労統計調査」と「雇用動向調査」の個票利用申請を行い,分析を追加して補完する. 「労働力調査」および「就業構造基本調査」による労働移動の分析を継続し,とくに正規・非正規就業状態を区別した労働力フローの変動,失業(無業)状態の期間依存による長期化現象,労働市場参入時の非正規雇用就業の履歴が将来の就業状態に与える影響に関する分析をまとめる.また,労働力フローの変動と所得の変動との関連に視野を広げ,OECDとの連携を中心に,必要であれば,「国民生活基礎調査」,「全国消費実態調査」,「所得再分配調査」など別の政府統計を申請し,分析する. 本科研費で実施したアンケート調査データに基づく研究を継続し,地域への定着・移動と非正規の固定化について考察を進める.あわせて,当初の計画で指摘した「インターネット就職活動と非正規化」の分析を継続して行う. さらに,当初の計画から発展的に,リクルートワークスの「ワーキングパーソン調査」を用い,正規・非正規の観点から,初職の履歴効果,賃金関数の推定による二重構造の検証,転職構造の相違に関する分析を追加して行う. 労働市場の実験研究については,1990年に松島が執筆した繰り返しゲームの理論論文をベースに設計した実験を実施し,その結果を統計的に解析する.
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Research Products
(10 results)