2014 Fiscal Year Annual Research Report
先住民族の労働・生活・意識の変容と政策課題に関する実証的研究
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24243055
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小内 透 北海道大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (80177253)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
野崎 剛毅 札幌国際大学短期大学部, その他部局等, 准教授 (50412911)
濱田 国佑 東京女学館大学, 国際関係学部, 講師 (50634523)
佐々木 千夏 旭川大学短期大学部, その他部局等, 助教 (50711222)
小野寺 理佳 名寄市立大学, 保健福祉学部, 教授 (80185660)
小内 純子 札幌学院大学, 社会情報学部, 教授 (80202000)
品川 ひろみ 札幌国際大学短期大学部, その他部局等, 教授 (80389650)
新藤 慶 群馬大学, 教育学部, 准教授 (80455047)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 先住民 / アイヌ / サーミ |
Outline of Annual Research Achievements |
1.本年度は、北海道白糠町でのアイヌ民族と地域住民を対象にした生活と意識に関する実態調査とフィンランドの先住民族・サーミが集住する地域にあるサーミ関連機関でのサーミの実態に関するヒアリング調査を実施した。 2.白糠町でのアイヌ調査では、一方で①アイヌの人々の学歴が全般的に低く若年層を含めて調査対象者に大卒がいないこと、②低学歴の傾向は学校での被差別体験にもとづく勉学意欲・学力の低下によりもたらされた場合が少なくないこと、③それと関連して低所得者や生活保護受給者が多かったこと、他方で④市町村合併断念後に町がアイヌ文化を自治体の自立の「資源」として活用し始めたこと、⑤それにともなって学校へのアイヌ文化の出前講座を始めとしてアイヌ語やアイヌ文化に関する活動が活性化していること、⑥その結果、アイヌとしての積極的なアイデンティティを持つ者が増加していることなどが明らかになった。 3.地域住民への調査では、アイヌ政策として、アイヌ文化の振興、アイヌへの差別と偏見の解消には積極的に評価する者が多い反面、生活や教育に関わる経済的支援策に対しては消極的に評価する者が多いこと、当地域ではアイヌ民族への差別意識は希薄だと考える者が多数であること、ただし、老年層の中には「アイヌの人々を特別視しないで付き合う」が「結婚には否定的」という意識の二重性があることがわかった。 4.フィンランドのサーミ集住地域、イナリに訪問し、サーミ議会、基礎学校、サーミ保育園、サーミ・ラジオ等でサーミの実態についてヒアリング調査を行った。その結果、ノルウェーと比べ、サーミ政策は積極的に展開されているとはいえないこと、サーミ・ラジオ、サーミ・テレビを除くと、サーミに関する情報を提供する各種メディアが少ないこと、最近サーミの権利の拡大に対する反発を背景にしてサーミの定義自体の見直しが進んでいること、などが把握できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.当初計画の通り、胆振・日高地方とは異なる道東の白糠町を対象にして、アイヌ民族集住地調査を予定した内容で実施することができた。具体的には、北海道アイヌ協会と白糠アイヌ協会の協力を得て、48名のアイヌ民族の人々を対象に生活の歩みと意識に関するインタビュー調査を行った。また、地域住民を対象にした郵送アンケート調査では、1,083名の地域住民へ調査票を配付し、430名から有効な調査票を回収することができた。有効回収率は39.7%であった。さらに、郵送アンケート調査の回答者のうち了解を得られた25名の方に対して、アンケート調査に追加する形でインタビュー調査を行うことができた。 2.フィンランドのサーミ集住地での機関ヒアリング調査では、直接当事者から多くの情報を得ることができた。同時に、各種の資料やデータを提供して頂き多くの成果を得ることができた。さらに、事前に把握していなかった重要なサーミ関連諸機関の存在が明らかになった。とくに、保育園で「言語の巣」(language nest)の方法でサーミ語を幼児の段階から修得させようとしていたことを把握できたのは大きな成果であった。これにより、先住民言語の継承と復活の道筋について今後直接ヒアリングできる可能性が開かれた。 3.新たな調査を遂行すると同時に、前年度に調査を行ったノルウェー・フィンマルク地方のフィンマルク土地管理公社に対する機関ヒアリング、基礎学校およびサーミ高校の生徒・保護者・教師に対するアンケート調査・インタビュー調査、サーミ関連の雑誌・新聞・テレビ・ラジオ等の各種サーミメディアなどに対する機関ヒアリング等の結果をまとめ、『調査と社会理論・研究報告書32 ノルウェー・フィンマルク地方におけるサーミの現状』と題する、中間報告書を刊行した。
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Strategy for Future Research Activity |
1.本研究プロジェクトの最終年度に当たる2015年度には、アイヌ民族集住地の補足調査と北欧・フィンランドのサーミ集住地での継続調査を以下のように実施し、研究を推進する。 2.アイヌ民族集住地として、3カ年にわたり調査を実施した北海道新ひだか町、伊達市、白糠町を対象にした、補足調査を実施する。補足調査は全体のまとめを行い、最終報告書を作成するために行うものである。 3.北欧・フィンランドのサーミの調査は、昨年度の予定どおり、今年度もフィンランドのサーミ集住地・イナリを対象にして実施する。昨年度実施したサーミ議会、サーミ博物館、基礎学校、サーミ教育研究所(中等職業教育機関)、サーミ保育園、サーミ・ラジオ等のサーミ関連諸機関でのヒアリング調査の結果をふまえ、サーミ議会を通じて、議会有権者を紹介して頂き配付やインタビューの形で、生活の歩みや様々な意識について調査を行い、基礎学校・サーミ高校・保育園の児童・生徒、保護者、教師に対するサーミのあり方に関する意識等の調査を配付やインタビューの形で実施する。 4.2014年度に実施した白糠町の調査結果をまとめ、報告書として刊行する。同時に、2015年度に実施するフィンランドのサーミ集住地調査で入手したデータを整理し、年度内に報告書を作成し刊行する。さらに、これまでに調査を実施した3箇所のアイヌ民族集住地の補足調査とサーミ関連情報の追加収集を行った上で、本プロジェクトのまとめを行い、最終報告書を刊行する。
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Research Products
(5 results)