2013 Fiscal Year Annual Research Report
聴覚障害児のための早期教育の統合的プログラムの開発
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24243080
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
福島 智 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (50285079)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 聴覚障害 / 早期教育 / クリティカルパス |
Research Abstract |
本研究では、1)聴覚障害の診断確定、2)それを受けての療育・教育に関する対応策の選択、3)就学先の小学校の選択、という重要な三つの時期・段階における選択に関して、親に早期教育の各種リソースに関する適切な情報提供を行うことを主眼におく。すなわち、これらの重要な時期・段階において、親が適切な判断・選択を行えるように支援することを目指しており、そのために、「聴覚障害児の早期教育に関する統合的クリティカルパス・プログラム」の作成と提示を研究目標として設定する。 平成24年度には、都立大塚ろう学校、私立日本聾話学校、私立明晴学園の事例を調査・研究した。また、厚生労働省感覚障害戦略研究成果「聴覚障害児の日本語発達のためにーALADJIN」をめぐるシンポジウムを開催し、そこでの検討を踏まえ、「聴覚障害児の早期教育の多様化は、教育目標自体の多様化によってもたらされている」という知見を得た。例えば、明晴学園は「ろう者としての人格形成を目的とし、日本手話の獲得をめざす」というユニークな教育目標を設定し、同時に聴者の文化を学ぶことも教育目標に位置づけている。 一方、平成25年度は、田中美郷教育研究所ノーサイドクリニックの聞き取り調査等の研究を行い、その結果、同クリニックでは、人工内耳を中心に、日本語獲得を教育の最終目標として設定していることが明らかとなった。 このように、明晴学園とノーサイドクリニックという2つの典型的な事例の調査・研究を通して、教育のクリティカルパスは、それぞれの教育機関がどのような教育目標を設定しているかによって、大きく左右されるという実態が明らかとなった。他方、多様な教育のクリティカルパスを考える際に聴覚障害児に対する情報保障も重要な観点となる。そこで、東京大学先端科学技術研究センターにおいて、「聞こえのバリアフリーシンポジウム:FMシステムとバリアフリー」を開催した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
聴覚障害児の早期教育プログラムに関して調査・研究した結果、それらの多様なクリティカルパスの特徴、アウトカムの特徴について明らかになりつつある。24年度には聴覚障害児の早期教育における統合的クリティカルパス研究に関する基礎的な研究成果を論文として発表し、26年度には、明晴学園、ノーサイドクリニック、筑波聴覚特別支援学校に関する研究論文の雑誌掲載が内定している(『聴覚障害』誌)。とくに、ノーサイドクリニックについては、人工内耳手術前に用いる手話と手術後の音声言語教育がどのように併用されているかについて、詳細に調査する予定である。 今後、聴覚障害児の早期教育における統合的クリティカルパスのプロトタイプを作成し、それに基づいて、先端研において聴覚障害児に対する教育・臨床研究を行いつつ、そのクリティカルパスのプログラム案をより実効性のあるものへの充実させていく。
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Strategy for Future Research Activity |
26年度は本科学研究の最終年である。 本年は、まず、人工内耳での日本語獲得をアウトカムとする、ノーサイドクリニックのクリティカルパスについてさらに詳細な検討を加え、そこでの指導・教育の性格と構造について分析する。また、ノーサイドクリニックの療育の手法には、国立障害者リハビリテーションセンターにおいて実施されている「S-S法」との類縁性が見いだされるため、補完的にS-S法の文献研究も行う。 同時に、先端研において、トライアングル金山記念聴覚障害児教育財団と協力して、クリティカルパスのプロトタイプの妥当性を、モデル的な教育・臨床実践を通して検証する。 なお、先端研における当該教育・臨床の現場では、すでに聴覚障害児の早期教育における保護者による多様なクリティカルパス選択事例が生じている。こうした現状をふまえ、現在進行形の研究課題として、多様なクリティカルパスの充実に繋がる鍵を握る要因として私たちが考えるのは、1)地域の多様なリソース(療育・教育・医療・保健・福祉関連等の社会資源)をどのように効果的に相互連関させるか、2)これらの社会資源を活用しつつ、多様に想定されるクリティカルパスに関して、聴覚障害児の親の適切で主体的な判断・選択を援助する人材、「クリティカルパス・コーディネイター」(仮称)をどのように育成するかであり、これら二つの研究課題についても取り組んでいきたい。 また、本年度は、「聞こえのバリアフリーシンポジウム:最新の多様な情報保障を総覧する」を企画しており、聴覚障害児の教育にとって重要な役割を担う各種最新テクノロジーの現状と課題を検討する。
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