2013 Fiscal Year Annual Research Report
静電キャリア濃度制御で切り開く新物性探索とモットロニクス
Project/Area Number |
24244062
|
Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
井上 公 独立行政法人産業技術総合研究所, 電子光技術研究部門, 主任研究員 (00356502)
|
Project Period (FY) |
2012-05-31 – 2015-03-31
|
Keywords | モットトランジスタ / パリレン / 高誘電率酸化物 / フォトリソグラフィー / 強相関酸化物 / 超伝導 / 強誘電体 / ラシュバ効果 |
Research Abstract |
本年度は、「5~10nmの極薄パリレン膜を作製する方法の確立」という最重要課題に集中的に取り組み、非常に満足な結果を得ることができた。そのパリレン薄膜上に、高誘電率(high-k)酸化物であるHfO2、Al2O3、Ta2O5などの薄膜を、原子層堆積装置を用いてわずか10nmの厚さで均質に積層させることにも成功した。この2層膜を収束イオンビーム加工装置(FIB)を用いて切断し、断面を透過型電子顕微鏡(TEM)や、走査型透過電子顕微鏡(STEM)とX線発光分光(XES)の複合装置により詳細に検討した結果、パリレンと酸化膜(さらに基板に用いたSrTiO3と上部の金属電極)が互いに元素を混成することなく、きれいな2層膜が作製できていることを確認できた。研究実施計画で想定していた以上に極薄で良質のハイブリッド絶縁膜が得られたというのは非常に意義のある結果である。ALD、FIB、TEM、およびSTEM+XESについては、物質材料研究機構のナノプラットフォームを活用して行った。 この極薄ハイブリッド絶縁膜を用いて、原子レベルで平坦なSrTiO3単結晶表面に、フォトリソグラフィーで電界効果トランジスタ(FET)を作製する研究も大きく進展した。昨年度に深刻な問題として残った電極のバリとそれに起因するリーク電流の問題はマスクパターンとレジストと蒸着方法の改良により克服できた。それに伴って数回に渡ってフォトマスクの試作と改良を行い、プロセス確立のための研究は最終段階に達している。最終年度にモットFETのプロトタイプを動作させるという目標の達成に向けて重要な成果となった。 酸素同位体置換したSrTiO3試料の作製は今年度に急進展した。さらには、その研究から派生して「La置換によってキャリアをドープしたSrTiO3単結晶の同位体置換」にも世界で初めて成功した。酸素同位体置換による強誘電体転移とキャリアドープによる超伝導転移の競合の研究に大きな進展をもたらすと期待される非常に重要な成果である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
極薄パリレン薄膜の成膜装置を用いて、当初研究目的であった5-10nmを上回る、4nmのパリレン薄膜を成膜することに成功した。この薄膜をエッチングしてそこにソースドレイン電極を作製し、さらに全体を4nmのパリレン薄膜で覆った。この合計8nmの厚さのパリレン薄膜上に10nmの高誘電酸化物薄膜を成膜し、FET用の極薄2層ゲート絶縁膜を作製することに成功した。全て予想を大きく上回る成果となった。 さらにFETデバイスパターンとそれを作製する際のフォトレジストおよび金属電極の蒸着方法の改良を行い、問題となっていた電極周囲のバリの生成を抑えることに成功した。ハイブリッドゲート絶縁膜を用いたFET作製プロセスの研究は大いに進展し、最終段階に達している。最終年度にモットFETのプロトタイプを動作させるという目標の達成に向けては、まだモット絶縁体薄膜との組み合わせという大きな関門が残っているが、ここまでの研究は予想以上の進展を見せている。 酸素同位体置換したSrTiO3試料の作製は、昨年度は全く進展できなかったが、今年度は同位体置換装置の移設が済み、ガスのバッファータンクを設けるなどの改良を行った結果、順調に動き始めた。その結果、計画は順調に進み、さらに、予想してなかった「La置換によってキャリアをドープした同位体試料の単結晶化」という副産物も生み出した。世界で初めての成功例である。これは強誘電と超伝導の関係を調べるだけでなくSrTiO3の特異な表面物性を研究するための非常に大きな進展であり、今後さらに発展させたい。 上記のFETを用いたSrTiO3の物性測定については、希釈冷凍機を用いた極低温での測定も含めて、ワイヤーボンディングなどの準備段階で試料が壊れてしまうという問題が残り、良い測定ができていない。こうした問題を含めてデバイスパターンや測定装置を改良するのが最終年度の重要課題となった。 以上、非常に満足できる進展を得た1年となった。
|
Strategy for Future Research Activity |
パリレンと高誘電率酸化物とのハイブリッドゲート絶縁膜の作製方法が確立したので、引き続きその絶縁耐圧と誘電率などの物性評価を行う。高誘電率酸化物層をチャネル部分に限定する、電極パッドの下層に低誘電率酸化物を積層させる、などデバイス作製に幾つかの改良を試みる。低温物性測定専用のチップホルダーを設計し、PPMSや希釈冷凍機での測定がシームレスに行えるようにする。 SmNiO3やVO2などの強相関酸化物単結晶薄膜上に、ハイブリッドゲート絶縁膜を用いて電界効果デバイスを作製し、モット転移の電界による制御を行う。このプロトタイプの動作を検証することで、将来のモットFETの実現のためにさらに必要な条件を明らかにする。ボンディング問題を回避する別策として、昨年度に120Kから470Kまでの温度範囲で簡単に測定できる低温プローバーを導入した。これを有効利用し、モットFETの物性評価を加速させる。 シンガポールの南洋理工大学にて、酸素同位体置換したSrTiO3および(Sr,La)TiO3試料についての電界効果を、希釈冷凍機を用いて極低温で測定する。表面のラシュバ効果によるスピン軌道相互作用の増強とそれによる異常物性、SrTiO3の量子常誘電と同位体置換による強誘電転移、さらにSrTiO3の示す超伝導の関係は今までほとんど調べられていない。モットFETのさらに先にある量子デバイスの実現に道を開くと考えられる重要な研究となる。 本科研費で採用したポスドクがJSPSの外国人ポスドクに採用された。本研究は最終年度に向けて急加速し、幅も広がって来たので、さらにもう一人、研究補助員を採用し、デバイス作製のプロセス(すでに方法を確立できたのでルーティンワークになった)を担当してもらう。 ハイブリッド絶縁膜と(Sr,La)TiO3単結晶の酸素同位体置換について特許出願する。両者の物性測定結果を論文発表し、極低温物性探索とモットFETの動作についても論文投稿する。
|
Research Products
(8 results)