2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
24245004
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (A)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
鈴木 俊法 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10192618)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 水和電子 / 光電子分光 / 溶液化学 / 超高速分光 |
Research Abstract |
磁気ボトルと静電場を組み合わせた新しい飛行時間型光電子エネルギー分析器を製作し、さらに100 kHzのチタンサファイアレーザーで励起された非直線型光パラメトリック増幅器を製作した。エネルギー分解能は50 meV, 時間分解能は50 fs程度と評価された。これらの装置を用いて、水溶液中のDABCO分子を3s Rydberg 状態に光励起し、バルク水中への自発的電荷移動反応によって生成した水和電子を光電子分光で検出した。DABCOからの電子移動に伴って光電子エネルギー分布は時間とともに変化し、スペクトル変化は2成分で説明できた。これらはDABCO分子の3s Rydberg 状態と水和電子の基底状態に帰属された。2つの化学種からの光電子角度分布には顕著な差が見いだされ、水和電子の電子波動関数が単純なs軌道では表現できないことが示唆された。また、NaI, NaBr, NaClなどの異なる水溶液について、流動電位と濃度の関係を精査し、共通した濃度依存性を見いだした。これらの水溶液では、ある特定の濃度で流動電位が消失し、液体の帯電を避けることが可能であることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実施計画の項目に沿って述べる。1)磁気ボトル飛行時間型分析器を設計製作し、半球型エネルギー分析器と比較して1000倍以上の感度向上が達成された。計画通りである。2)非直線型光パラメトリック増幅器を2台製作し、可視光で30 fs程度、紫外光で45 fs程度のパルス幅を実現した。計画では紫外域で30 fs以下としていたので若干パルス幅が長い。3)流動帯電現象の研究では、NaI, NaBr, NaClなどの電解質の濃度に対する流動電位を測定し、一定の傾向を明らかにした。計画通りである。4)温度変化できるノズルを計画通り製作した。しかし、Raman Thermometryに関しては分光器の精度が低く、検量線を求めるには至らなかった。装置の改造が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
装置開発は一段落したため、分光研究を本格的に進めていく。まず、光電子の放出角度分布を時間の関数として測定するtime- and angle-resolved photoemission spectroscopyを実現し、水和電子の基底電子状態からの光電子放出角度分布を求めて電子波動関数を議論する。水和電子の基底状態は水素原子のs軌道のような空間対称性を持つと考えられてきたが、その場合は高い光電子異方性を示すはずであり、これを精査する。次に、水和電子を励起状態(p state)に光励起し、その後の電子緩和過程を光電子分光で追跡する。過去の研究で、p状態の緩和が非断熱的なs 状態への緩和が律速か、またはp状態における溶媒和が律速か議論が分かれていた。光電子分光によって、これを明確にする。最後に、酸化チタンなどのナノ粒子を含む水溶液を光励起し、光触媒反応を電子移動の観点から明らかにする。ぬれた環境での光触媒の光電子分光は過去に報告例がない。
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