2013 Fiscal Year Annual Research Report
ルミネッセンス計測に基づく流砂系土砂移動と歴史津波の推定手法の構築
Project/Area Number |
24246085
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐藤 愼司 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90170753)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田島 芳満 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20420242)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 海岸工学 / 津波 / 海岸侵食 / ルミネッセンス計測 |
Research Abstract |
世界的に激化する海岸侵食を解決するためには、山地から河川・沿岸域を含む広域流砂系の土砂動態を正しく把握し、抜本的な対策を検討することが重要であるが、土砂の流れを高い精度で捉えることは困難である。本研究では、流砂・漂砂の分析に世界で初めてルミネッセンス計測を導入し、長期にわたって広域で生じる土砂移動を追跡可能とする。これを粒子露光モデルなどと組み合わせることにより、流砂系の土砂フラックス推定精度を飛躍的に向上させる。これらをもとに沿岸砂質堆積物の堆積年代と起源を科学的に推定し、歴史津波の同定に応用する。 昨年度までの地中探査レーダーや堆積構造分析などの予察的な研究成果に基づき、本年度は津波堆積物の判別が困難な砂丘海岸として,鳥取県米子市から境港市にかけての弓浜半島海岸を対象とし,ルミネッセンス分析の有効性を検討した.同海岸においては,17世紀始めから1923年頃までのおよそ300年間,中国山地の各所で盛んに行われた「鉄穴(かんな)流し」により日野川からの土砂供給が人為的に増加したが,その後鉄穴流しの衰退により供給土砂が減少し,河口両岸の日吉津海岸および皆生海岸では海岸侵食が深刻な問題となっている.このような海岸地形の長期変動も考慮したうえで,歴史津波の影響を分析した。 江戸時代後期の古地図分析や熱ルミネッセンス測定の結果をもとに,弓浜半島海岸における200年程度の時間スケールの土砂移動形態と,日野川の流路変動などに伴う大規模な海岸変形を推定することができた.また、米子空港東の地中コア試料の砂質堆積物を熱ルミネッセンスを用いて分析し,1833年の庄内沖地震による津波と整合的な年代が得られた.これにより、津波堆積物の判別が困難な砂丘地の海岸などにおいても、ルミネッセンス測定によって,津波堆積砂層の判別と歴史津波の年代推定が可能であることが示された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
申請時の研究計画では、平成25年度は、波・流れ場における砂粒子の露光特性と予察的なルミネッセンス計測を実施する予定であったが、波・流れ場の露光特性については、平成24年度において、露光モデルの提案まで実施できたため、平成25年度は、ルミネッセンス計測と歴史津波同定への応用まで研究を進めることができた。歴史津波同定への応用に関しては、平成24年度に、仙台平野および三陸地方の吉里吉里において、津波堆積砂の判別に光励起ルミネッセンスが応用できることを確認していたため、今年度は、津波堆積物の判定が困難な、砂丘地の歴史津波への適用に取り組んだ。 対象地域の選定は、地中レーダ調査や、海浜地形の堆積構造調査などをもとに数地点を選定したが、その過程において、島根大学および鳥取県の全面的な協力が得られ、米子において、過去の調査で津波堆積砂の可能性が指摘されている地点を抽出することができた。本来であれば、対象地点の選定に数か月の調査期間が必要であるが、時間と研究の進捗を効率化することができた。 海浜の熱ルミネッセンス計測と古地図の分析では、既往研究で天竜川および遠州灘で実施した研究成果を活用することができた。さらに、コア試料の粒径・光励起ルミネッセンス分析では、中田島砂丘での調査経験を活用して、波と風の作用による堆積過程を分離し、これに、津波イベントが重なっていることまで推察することができた。これらは、平成26年度以降に実施予定であった課題であり、現段階では、当初計画以上に研究が進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で、仙台平野、吉里吉里、米子などで、流砂系の土砂移動の把握と歴史津波の同定に、ルミネッセンス計測が有効であることを実証的に示すことができた。今後は、さらに複雑な流砂環境である地域に本手法の適用を図り、手法の有効性を確かめる。さらには、平成25年度の研究で、歴史津波の痕跡が発見された鳥取県米子市に対して、波源モデルからの津波伝播計算を実施し、津波による米子付近の海岸の土砂移動と堆積砂層の形成に関して検討することとする。 津波伝播計算には,非線形長波方程式を用い、球面座標系における広領域の伝播計算(計算格子は30秒)を,高解像度の計算領域(計算格子20m)に接続することにより、沿岸地形の詳細を含めた現実的な計算とする.津波波源には,相田(1989)による1833年庄内沖地震を想定した断層モデルを用いる予定である。また,狭領域の地形は伊能図(1807年測量)の地形を復元して用いる.平成25年度における新旧地形図の分析において、コア採取地点の当時の標高は現在より約1m低かったと推定されることから、海岸線付近の標高を1m低下させ、さらに伊能図における海岸線位置を復元して、長期的な流砂系土砂移動の結果を反映した形で歴史津波の分析を実施する予定である.
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Research Products
(1 results)