2014 Fiscal Year Annual Research Report
進化工学的手法により分子構築した宿主可変ファージによる感染症の制御
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24246133
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
丹治 保典 東京工業大学, 生命理工学研究科, 教授 (00282848)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮永 一彦 東京工業大学, 生命理工学研究科, 助教 (40323810)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | バクテリオファージ / 黄色ブドウ球菌 / ファージセラピー / 乳房炎 |
Outline of Annual Research Achievements |
ファージセラピーとはバクテリオファージの溶菌能を利用し細菌感染症の起因原因菌を殺す治療法を指す。本研究の最終目標はファージセラピーの実現化である。標的とする病原菌をファージで制御するためには病原菌に感染性を示すファージをスクリーニングし使用するのが一般的である。しかし、望むファージが得られる保証はない。本研究の目的はファージの宿主認識特異性を進化工学的に改変し、所望するファージを育種する手法の開発にある。牛乳房炎を起因する黄色ブドウ球菌に感染性を示すPhageSA012を宿主と長期間接触させると宿主はファージに耐性を示し、しばらくすると耐性化した宿主に感染性を示すファージが出現する。今年度はファージに耐性化した黄色ブドウ球菌11種のゲノム全配列を次世代シーケンサーで解析し、ファージ耐性化のメカニズムを探索した。ファージ耐性化宿主のゲノムを解析したところ、9つの遺伝子領域に変異の蓄積が見られた。これらの変異はファージのレセプターとして機能している構造タンパクか、レセプターの合成に必要な機能タンパクである可能性が高い。 共同研究先である酪農学園大学岩野英知准教授のグループに精製したPhageSA012を提供し、生牛を用いた臨床実験を3度試みた。最初の実験では一頭の生牛が持つ4つの乳房を用い、人為的に黄色ブドウ球菌を接種し乳房炎を発症させ、ファージ投与の効果を検証した。投与した黄色ブドウ球菌とファージの乳房内濃度変化を追うことができたが、ファージ投与群で黄色ブドウ球菌の生育を抑制することはできなかった。2度目の臨床試験では黄色ブドウ球菌を接種後に生牛が死亡したため、実験を中断した。3度目の臨床試験では投与するファージ量を増やした。1回目に実施したよりもファージの共投与条件下で黄色ブドウ球菌の増殖抑制が観察されたが再現性や統計的検証を行うために実験を継続する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の研究で牛乳房炎起因黄色ブドウ球菌(SA003)とその特異的ファージ(PhageSA012)を約200日間共培養したところ、ファージに対し耐性を示す変異SA003が次々と出現した。本年度は次世代シーケンサーを用い、ファージ耐性SA003の全ゲノム解析を11種の耐性菌に対し実施した。共培養の進行と共に変異の蓄積が見られ、それらの変異部位はファージレセプターである可能性が高いと考えられた。昨年度の研究ではファージが宿主レセプターを認識するリガンド蛋白質をコードする遺伝子領域候補を特定することができた。今年度は宿主がファージに感染される際に必要なレセプター候補遺伝子群を特定することができた。遺伝子群にはファージレセプターとして知られるタイコ酸の合成に関わる遺伝子tarOが含まれる。ファージのリガンド蛋白質と宿主のレセプターが同定できれば本研究の要となる進化工学的手法によるファージに宿主認識の人為的変換の標的が定まったことになる。 一方、ファージセラピーの臨床試験を共同研究先である酪農学園大学で3度実施した。試験管内で実証された結果とは異なり、ファージによる牛乳房内黄色ブドウ球菌の制御能は明確に示すことができなかった。一つの原因として黄色ブドウ球菌の凝集能が挙げられる。黄色ブドウ球菌が牛IgG依存的に凝集体を形成し、凝集塊となった黄色ブドウ球菌はファージに耐性能を示す現象を捉え、論文として発表したBiochemical Engineering Journal 97 (2015) 17-24。凝集塊を形成した黄色ブドウ球菌の解析が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の要であるファージの宿主認識特異性を進化工学的手法により人為的に改変するためには、ファージゲノムの高効率な変異導入が必須である。昨年度の実験によりファージのリガンドタンパク質を同定することができた。今年度はファージゲノムとプラスミド間の相同組換え効率を増大させる目的で、CRISPR/Cas systemを用いる。モデルシステムとして大腸菌とその特異的ファージT2を用い、複数のターゲット遺伝子領域をCRISPR/Cas を含むプラスミドにクローニングし、大腸菌を形質転換する。形質転換した大腸菌に組換え用プラスミドを再導入し、野生株T2ファージを感染させ遺伝子組換えによる変異ファージの産生を検証する。従来法では組換えファーの選択はプラークハイブリが用いられるが面倒である。本システムを用いれば容易に組換えファージを識別することが出来る。 牛乳房炎を引き起こす黄色ブドウ球菌のファージセラピーを目指し、CRISPR/Cas systemを黄色ブドウ球菌に導入することを試みる。しかし、黄色ブドウ球菌の形質転換効率は大腸菌に比較し非常に低い。また既存のCRISPR/Cas systemが黄色ブドウ球菌でも機能するか不明である。必要に応じ乳房炎起因黄色ブドウ球菌内で機能するCRISPRシステムの探索を実施する。 昨年度実施した生牛を用いた3度の臨床試験ではファージによる乳房内黄色ブドウ球菌の制御能を明確に示すことができなかった。予防的にファージを投与する試み、ファージの投与回数を増す、黄色ブドウ球菌の凝集塊をほぐす方法の探索等を実施する。
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Research Products
(7 results)