2013 Fiscal Year Annual Research Report
ナノジオサイエンスに立脚した原油増進回収技術の研究
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24246148
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松岡 俊文 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10303851)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
辻 健 九州大学, カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所, 准教授 (60455491)
LIANG Yunfeng 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70565522)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ナノジオサイエンス / 石油工学 / 3相界面現象 / 原油の増進回収 / 分子動力学 / アスファルテン分子 / LBM / ディジタルオイル |
Research Abstract |
本研究では、石油の増進回収技術(EOR)に必要となる貯留層内の原油・天然ガスと孔隙水と岩石鉱物表面における3相界面現象の理解を目指す研究である。これを達成するために、平成25年度はSpring-8 を利用したX線反射率法の実験を開始すると共に計算化学とマクロスケールでのシミュレーションを用いて研究を積極的に進めた。 Spring-8の最初の実験を平成25年の4月に行った。この実験ではSiO2/Si基板と水及び有機溶媒の固液界面におけるX線反射率測定を行った。その結果有機溶剤の場合は基板表面に吸着し、水の場合は疎水性を示すような結果となった。またEORへの具体的な応用を考えて、国内油田の原油を用いて化学分析を行い原油の構成分子とそのモル比をQMR(Quantitative Molecular Representation)法を用いて決定した。この方法を利用することで今まで推定が困難で有った原油のアスファルテン分子と、炭素数が大きい重い部分の分子構造を決める事に成功した。この概念をDigital Oil と命名し、国際会議で発表したところ、多くの賛同が得られると共に、優秀ポスター賞を獲得した。 さらに近年米国を中心にシェールガスの開発が進められているが、シェールという今までとは異なったガス貯留層の為に幾つかの留意点が必要になる。その一つにガスの生産時において、計測された値よりも実際の浸透率が大きくなる現象が報告されている。これは微細な孔隙内では代表長さが小さくなり、流体のクヌセン数が大きくなるために、流動するときに壁面で流体が滑ることで説明されている。この現象を再現するためにLBM(Lattice Boltzmann Method)法と分子動力学法とのシミュレーションを行い、理論解との良い整合を得ることが出来た。今後は分子論的検討から滑り量の推定を試みる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は、Spring-8を用いた実験を2回(4月と11月)行うことが出来た。この実験はナノジオサイエンスの研究を進めるために不可欠と考えていた部分であり、大変に意義深いものである。また現在も引き続きSpring-8の利用申請を行っており、この一群の実験成果はナノジオサイエンス研究の中心部になりつつある。これらの実験結果は分子動力学を使って行われたシミュレーション結果と比較検討し、現在論文にまとめつつある。今後とも、Spring-8を利用し、EOR技術に不可避な界面現象の解明に向けた先端的なテーマにチャレンジしていきたい。 分子動力学を使った計算においては、実際の国内の原油に対して、化学分析を行い、さらにNMR計測結果を元に、アスファルテン分子モデルや重い部分を含む原油モデル(Digital Oil)の作成に成功したことが、本年度の最大の成果である。この成果は現在論文にまとめているが、平成26年の3月に研究代表者が組織委員長として、京都においてSPE(石油技術者学会)が主催する国際シンポジウム「Nanotechnology and Nano-Geoscience in Oil and Gas Industry」において発表され、最優秀ポスター賞を得ることが出来た。さらに、この国際会議によってナノジオサイエンスは石油業界において市民権を得ると同時に、その有用性が認識された。さらにシュールガス開発に伴うEORを射程に入れて、ケロジェン分子とメタン及び二酸化炭素との界面現象を明らかに出来た。この様に本年度は新しい実験と、さらに計算化学においても多くの成果を得ることが出来た年であり、研究は想像以上に大きく進展している。発表論文は3編を少なかったが、昨年度発表された内容を現在論文化しており、今後目に見える成果が出せると確信している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究ではSpring-8を利用して、将来的には油―水の液液界面での計測を計画している。現在の状況から考えると、この液液界面をどのように構成するかが一つの課題である。なるべく早く3相界面構造計測のアイディアを得たい。一方科研費を使って導入した動的光散乱計を用いて、ミクロ油滴径分布の計測と液体中のナノ粒子の計測を平成26年度から本格化する。 平成25年度に採用したポスドクは、個人的な理由で1年弱で京都大学を離れたため、本年度も新しい人材の採用を検討する。ポスドクには計算化学分野での研究を期待している。本研究では国内原油の成分解析を進めたが、その結果我々はDigital oilの概念を作り上げることが出来た。これは原油のモデル化であり、このモデルに対して色々な温度圧力条件を変えて、分子動力学シミュレーションを行う事で地層水と原油が作り出す界面張力の変化、あるいは原油に対する相図を描くことが可能である。さらにEOR分野で近年多くの注目を浴びているCO2―EORにおける混和状態の予測等が可能になる。 平成26年度はこれらのテーマに注目して研究を進めたい。またポスドクが途中まで進めて来た界面活性剤を用いたEORの分子シミュレーションは引き続き研究を進める予定である。これらの一連の実験と計算化学を両輪として、本年も引き続き精力的に研究を進める。
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Research Products
(15 results)