2012 Fiscal Year Annual Research Report
細胞膜上マクロ構造体の形成と機能の機構:1分子イメジングによる解明
Project/Area Number |
24247029
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (A)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
楠見 明弘 京都大学, 物質-細胞統合システム拠点, 教授 (50169992)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
笠井 倫志 京都大学, 再生医科学研究所, 助教 (20447949)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 細胞生物物理 / 1分子計測・操作 / メゾスコピック系 / 生体分子 / 細胞膜の動的構造 |
Research Abstract |
本年度は、第一に、接着班とは関係のないトランスフェリンレセプター(TfR)、脂質アンカー型タンパク質のThy1、接着斑の主要タンパク質で細胞外基質の受容体の膜貫通型タンパク質であるインテグリンβ3を蛍光標識して1分子観察した。TfRもThy1も接着斑の中に簡単に入っていき、その中で拡散運動していることがわかった。すなわち、接着斑が、1個のタンパク質大規模集積構造であるという一般的な概念は明確に否定された。インテグリンβ3は、接着斑の中で、単純拡散と一時停留を繰り返しており、動いている時間は70%、止まっている時間は30%であった(1回毎の時定数は、0.22秒と0.51秒)。これらは、接着班の群島モデルを支持する。インテグリンは、接着斑を作るタンパク質集合体である島に結合したり、取り込まれたりして、静止したり、一時停留する、と推定できた。 第二に、接着斑形成に関わるシグナル分子であるRac1、および、それを活性化するPIXが、接着斑にリクルートされる過程と機構を明らかにした。PIX分子は、細胞質から接着斑に直接結合し、運動停止することがわかった。Rac1が接着斑にリクルートされる過程には、細胞質内から直接に到達する過程と、まず、細胞膜上に適当に着陸して、その後、細胞膜上を2次元拡散して接着斑に到達する過程という、2つの過程が存在した。Rac1の1分子追跡の結果、前者は約30%、後者は、約70%であることがわかった。このとき、多くのRac1分子は、接着斑領域で、頻繁に、拡散運動と一時停留を繰り返す。我々は、インテグリン分子と同様、Rac1も接着斑タンパク質群の島との結合によって、一時停留や静止が起こっていると推定している。現在、我々は、これを直接に証明すべく研究を続けている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
細胞膜上には、直径が500nmを超えるマクロ構造体が多数存在し、重要な機能を果たしている。本研究では、主に接着斑をとりあげ、微細構造と、形成・分解の制御機構を解明することを目的とする。本研究の開始前、すでに我々は、世界をリードする生細胞1分子観察法を用いたパイロット研究を行っていた。その結果、接着斑は、今まで信じられていたようなタンパク質の巨大集積体ではなく、100nm未満の直径を持つ小さな島のようなタンパク質集合体が、同程度の隙間をあけて集まってできる『群島』構造をとっているという作業仮説が得られた。この作業仮説をもとに、細胞膜上マクロ構造体に共通の基本戦略・原理の解明を進めている。 実績の概要にも書いた通り、具体的には以下が達成された。 《1》接着斑のナノ構造の解明が進み、群島構造モデルを強く支持する結果を得た。各島にあるFA構造分子であるインテグリンβ3、島の間の海(海峡)を拡散移動する分子であるTfRとThy1を1分子イメジングすることによって、また、それらの核酸を詳細に調べることによって、これらが明らかになってきた。 《2》接着斑形成に関わる分子である、PIXとRac1のリクルート機構が解明された。 今までのタンパク質巨大集積体という接着斑のモデルでは、接着斑形成時にインテグリンなどが、細胞膜上でどのように集合できるのか、分解時には、どのように崩していくのか、全く不明であった。ベネツィア運河モデルでは、運河内は移動できても、回り込むのに時間がかかりすぎて(拡散係数は1/100~1/1000程度にまで減少する)、予備実験結果とも合わないし、形成・分解を、それぞれ数分で行うのは不可能である。本研究で、群島モデルの検証が大いに進展し、当初の目的が達成されつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
以下の計画にしたがい、研究を推進する。 (1)細胞外基質の受容体であるインテグリンの接着斑内での挙動を、超高速1分子追跡法を用いて詳しく調べる。また、接着斑の裏打ちタンパク質分子の局在を高精度で調べ、両者の関連を検討する。 (2)接着斑領域内の海や島がラフトの性質をもつ可能性を調べる。すなわち、ラフト親和性の蛍光性糖脂質や脂質アンカー型受容体などのラフト親和性を持つ分子が、FA域内で特異な挙動を示す可能性を探究する。 (3)Rac1活性化と接着斑との関係を解明する。 (4)神経細胞の後シナプスについて、群島モデルの検証を始める。予備結果では、シナプス後膜の微細構造とシナプス増強・減弱・維持の機構も群島モデルで説明できる可能性が高く、具体的解明を進めたい。これにより、神経回路の活動依存的な強化・維持の機構の解明という、神経科学の大問題の解明につなげられる可能性が有ると考えている。 後シナプスは100~500nm程度の大きさの構造体であるが、そこに、様々な神経伝達物質受容体、膜裏打ちタンパク質、アクチン線維などが集積し、巨大なタンパク質塊を作っていると考えられてきた。しかし、これらの分子のターンオーバーは通常でも数10分程度で起こり、さらに活動電位や長期増強刺激などの刺激によって、分子特異的にターンオーバーが速くなり、集積度も上がるのなどの変化が、数分から10分で生起することが示された。我々も、GluR1の1分子観察によって、これを確認し、後シナプス膜の構造も群島モデルで説明できるという作業仮説を得た。そこで、FAと同様の手法で検討を進める。我々は、ラット海馬培養細胞を用いた研究をこの10年来おこなってきており、シナプス群島モデルの検証の準備は十分である。
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Research Products
(22 results)
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[Journal Article] Archipelago architecture of the focal adhesion: Membrane molecules freely enter and exit from the focal adhesion zone2012
Author(s)
A. C. E. Shibata, T. K. Fujiwara, L. Chen, K. G. N. Suzuki, Y. Ishikawa, Y. L. Nemoto, Y. Miwa, Z. Kalay, R. Chadda, K. Naruse, and A. Kusumi
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Journal Title
Cytoskeleton
Volume: 69
Pages: 380-392
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Cholesterol modulates cell signaling and protein networking by specifically interacting with PDZ domain-containing scaffold proteins2012
Author(s)
R. Sheng, Y. Chen, H.Y. Gee, E. Stec, H.R. Melowic, N.R. Blatner, M.P. Tun, Y. Kim, M. Kallberg, T.K. Fujiwara, J.H. Hong, K.P. Kim, H. Lu, A. Kusumi, M.G. Lee, and W. Cho
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Journal Title
Nat. Commun.
Volume: 3
Pages: 1249
DOI
Peer Reviewed
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