2015 Fiscal Year Annual Research Report
イネ属AAゲノム種の種分化におけるF1花粉不稔遺伝子の進化生物学的役割
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24248002
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
吉村 淳 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (00182816)
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Project Period (FY) |
2012-10-31 – 2017-03-31
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Keywords | 生殖的隔離 / 種分化 / 雑種不稔 / イネ / AAゲノム種 |
Outline of Annual Research Achievements |
<S22Bの原因変異同定> 本年度は、単離済みS遺伝子S22Bの原因変異の絞り込みに注力した。多様性解析の結果、S22B-glumアリルが持つアミノ酸置換1つとフレームシフト変異を原因変異として絞り込んだ。証明のため、sativa対立遺伝子にフレームシフト変異部位を導入したコンストラクトの作成を試みたが、大腸菌の系ではクローニングが困難であった。 <S22Bの単離> S22Bタンパク質は大腸菌などのグラム陰性菌が保有するグルカン代謝酵素と相同性を有しており、大腸菌では外膜と内膜間の膜間腔に局在する。S22B遺伝子の発現解析の結果、一細胞期に最も発現していた。S22Bタンパク質の細胞内プロセッシングを明らかにするため、MALDI/TOFMS解析によるフラグメント同定を試みたが、解析は困難であった。本研究期間内での全容解明が困難であるため、細胞内プロセシングに関する研究と遺伝子単離の部分を分割する形で論文投稿を検討する。 <その他の遺伝子> (1)遺伝子単離及び分子機構解明: S22Aの単離について、作出したT0個体の表現型解析を行ったところ、相補している結果が得られた。O. glumaepatulaアリルではトランスポゾンの挿入およびフレームシフト変異が見出されており、機能欠損型変異を示していた。S23については高精度連鎖解析を追加的に行い、30kb程度領域の4つの候補遺伝子にまで絞り込んだ。(2)原因変異の同定と系統地理学的起源の解明: 上記のように、S22Bに注力して実験を行った。(3) 対立遺伝子間の多様性解析: 国立遺伝学研究所野生イネコアコレクションBC3F1集団4集団に関して、現在遺伝子同定を進めるとともに、対象遺伝子座の配列決定を行っている。(4) S遺伝子座の分子系統学的解析: AAゲノム種系統についてS22Bの配列決定を行った。 <論文投稿について> 副次的な成果であるSK35/SK36の単離に関する論文を投稿した。レビュアーに指摘された点について新たなデータを取得し、論文訂正を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
論文投稿や学会発表などが遅れている。本年度は副次的成果であるSK35/SK36の遺伝子単離の論文を投稿したが、レビュアーコメントに対する新規データ提出と論旨訂正などに時間を要した。第二校をほぼ書き上げたので、再投稿を行う。S22Bの原因変異の同定が当初計画よりも遅れている。多様性解析から推測された原因変異であるフレームシフト変異を含むコンストラクトの作成に時間を要している。S22B単離の論文投稿については、今回投稿に必要なデータが一通り揃っているものの、論文投稿に至っていない。S22Aの遺伝子単離については、形質転換体T0世代において相補したと考えられるため、進捗していると考えられた。S23の遺伝子単離については、形質転換による候補領域の絞り込みを検討していたが、追加の8000個体を用いた高精度連鎖解析により、さらに絞ることができ、形質転換体の作成に進むことができている。遺伝研AAゲノムコアコレクションrank1とrank2のBC3F1集団を整備したので、遺伝子同定と多様性解析の充実化を今後図っていくことができる。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は最終年度であるので、論文投稿に注力して研究を進める。 <S22Bの原因変異同定> S22Bの原因変異同定に関しては、O. glaberrima系統のS22Bの保有の有無を確認する事で、アミノ酸変異およびフレームシフト変異が原因変異であるかを確定できるので、評価を進め、論文投稿に必要なデータを夏までに取得する。その後、多様性解析の論文として、論文投稿を行う。 <S22Bの単離> S22Bについては遺伝子単離に必要なデータがほぼ出そろっているので、論文投稿およびアクセプトを本年度中に達成する。 <その他の遺伝子> (1)遺伝子単離及び分子機構解明: S22Aに関しては、T1での後代検定を行い、相補性検定を確定させる。また発現解析およびウェスタン解析、局在解析を進める。S23に関しては、相補性検定を進め、研究期間内での遺伝子単離を目指す。(2)原因変異の同定と系統地理学的起源の解明: S22Bについては上記に記載した。S22Aについては、原因遺伝子が現在T0にて相補したと考えられている遺伝子である場合、glumaepatula側の原因変異は明らかなトランスポゾンの挿入とフレームシフト変異であるため、これらの変異の起源について解析を行う。(3) 対立遺伝子間の多様性解析: 国立遺伝学研究所野生イネコアコレクションBC3F1集団8集団に関して、遺伝子同定を進めるとともに、単離済み遺伝子座に関する配列決定を行う。(4) S遺伝子座の分子系統学的解析: (3)において配列決定した遺伝子に関して、分子系統樹および進化速度の解析を行い、S遺伝子座の進化について考察する。 <論文投稿について> 現在投稿中のSK35/SK36については論文の再投稿を行い、年度内のアクセプトを目指す。
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