2012 Fiscal Year Annual Research Report
森林‐農地移行帯における放射性核種の移動・滞留と生態系濃縮の評価
Project/Area Number |
24248058
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (A)
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
五味 高志 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (30378921)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
戸田 浩人 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (00237091)
木村 園子ドロテア 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (60397015)
渡邊 裕純 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (80323757)
布川 雅典 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 博士研究員 (90389651)
浅野 友子 東京大学, 農学生命科学研究科, 講師 (80376566)
根岸 淳二郎 北海道大学, 地球環境科学研究科(研究院), 准教授 (90423029)
水垣 滋 独立行政法人土木研究所, その他部局等, 研究員 (10559686)
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Project Period (FY) |
2012-05-31 – 2015-03-31
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Keywords | 放射性核種 / 生物濃縮 / 森林農地生態系 / 渓流生態系 / 安定同位体分析 / 放射性物質の移行 / 流域物質循環 |
Research Abstract |
平成24年8月に福島県二本松市大沢川流域、群馬県みどり市FM大谷山流域において調査地点を決定した。放射性核種蓄積量測定のためのリター層、A0層下部土壌、土壌コアサンプル、渓流内土砂及び有機物サンプルの採取を行い、ゲルマニウム半導体検出器を用いた放射性核種濃度の分析を行った。森林斜面、渓岸裸地、渓床、貯水池底、ダム底を選定しサンプルを採取した。渓流内には浮遊土砂サンプラーを平成24年8月に設置した。また、各流域における空間線量の空間分布および福島県下における時系列変化を把握するために、ArcGISを用いて、空間分布特性および経時変化を把握した。土壌中における放射性セシウムの移動形態を把握するために、逐次抽出を行うことによって、それぞれの分画についてセシウムの存在量を明らかにした。50x50cmの森林と里山の区画では、表面から5mm、5~10mm、50~100mmの土壌を採取し放射性核種濃度を分析した。陸域から水域への放射性セシウムの動態を把握するために、降雨実験による放射性セシウム動態と侵食土壌の調査を行った。 河川と河畔域では、調査流路区域50mを設定し、生物試料を採集した。ピットフォールトラップ、ベイトトラップ、ビーティング法によって生物試料を採集した。カエル類は、調査中に適宜捕獲した。魚類(イワナ)の採集も行った。採集した試料は種同定を行い、乾燥と粉砕の後、U8容器(100 ml)の底面を満たせる程度まで採取できている種について放射性核種分析測定用試料とし、ゲルマニウム半導体検出器を用いて分析した。イワナに採餌されている生物については、ストマックポンプを用いてサンプルを採取した。また、生物試料は、1~数個体を分けて粉砕して炭素・窒素安定同位体比分析用試料とした。試料の炭素・窒素安定同位体比分析には、質量分析計を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の本研究課題の交付申請が6月であり、実際の研究開始が8月となったが、概ね順調に研究を進めることができた。本研究では、福島県二本松市のNPO法人ゆうきの里東和ふるさとづくり協議会からの協力が得られたこともあり、現地における調査地の設定など、研究を順調に推進することができた。 とくに、森林―渓流生態系を構成する物質では、林床の落葉の放射性セシウム濃度が最も高く、福島原発事故によって放出された放射性物質の多くは、陸域に現存していることが明らかとなった。渓流河床堆積物の放射性セシウム濃度は、水・土砂の滞留時間が長くなる砂防ダム内などで高くなっていた。土壌中の放射性セシウムの存在画分を把握するための手法を確立し、粘土含有率によっては強固定画分中の放射性セシウムが異なることを示すことが出来た。森林生態系における放射性セシウムの空間分布は、樹冠の開空度、立地に大きく影響されていることが判明した。放射線量の高い地域では、落葉層が厚いほど林床の線量が高くなる傾向が見られた。ほとんどの林分で、経時変化を示し、リターフォールのセシウム濃度は、低下していっていることが判明した。1時間の降雨実験において、降雨開始30分後以降で、その前よりも放射性セシウムを含む土砂が降雨とともに多く流出することが明らかとなった。 生物の放射性セシウム濃度は、必ずしも、栄養段階に応じて高いわけではないことが判明した。同じ栄養段階の生物では、最も汚染度の高い林床のリターが存在する生息地に生息する種(カマドウマ科、カエル類)の方が、造網性クモ(オオシロカネグモ)やイワナよりも放射性セシウム濃度が高くなる傾向があった。イワナの放射性セシウム濃度は、夏季のサンプルや体長が大きいほど高くなり、水温による代謝率の変化や、餌資源内容の変化に起因するものと推察できた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の調査から、森林―渓流生態系内の放射性セシウムの生物濃縮プロセスの理解のためには、各対象生物それぞれの生息地の汚染度を把握することが重要であることが分かった。とくに森林生態系においては、林床のリターが最も汚染度の高いことから、地上徘徊性と、その他の生活型の動物とでは、潜在的に放射性セシウムの蓄積量が異なることが考えられる。一方、渓流生態系においては、放射性セシウムが多く吸着された細粒土砂が溜まりやすい流速の緩やかな生息地(例えば、淵)と、急流(瀬)とで生物体への放射性セシウムの蓄積量が異なると予想される。今後のデータ解析においては、セシウムと各対象生物種が依存する生息場の時空間分布の重なりについての詳細な情報を解析する予定である。ただし、放射性核種分析のためには種ごとに多くの個体を捕獲する必要もあることから、Well型ゲルマニュウム半導体検出器により少量のサンプルによる分析を進める必要がある。 また、本研究では、生息地情報を合わせて生物濃縮プロセスの理解には重要であると考え、生物体の炭素・窒素安定同位体比分析を用いた食物網構造の解明の継続していく。平成24年度の調査から、イワナ、カエル類の放射性セシウム濃度の結果から、年齢、体サイズによって生物体内への放射性セシウムの蓄積量が異なることが判明したことから、体サイズや温度などと生物に餌資源摂取と体内からの排出のメカニズムの解明を進める。 さらに、流域スケールでは、森林からの流出とともに砂防ダムなどによる一時的な放射性核種の蓄積についても把握できたことから、今後継続的な蓄積と流出を把握することにより、放射性物質動態とともに生息環境の汚染度の評価を進める。このためには、森林における放射性核種動態の把握、移動態などの分画、空間分布の把握について継続的な解析を行う。
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Research Products
(16 results)