2012 Fiscal Year Annual Research Report
地球温暖化による熱帯高山の氷河縮小が生態系や地域住民に及ぼす影響の解明
Project/Area Number |
24251001
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Section | 海外学術 |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
水野 一晴 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 准教授 (10293929)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森島 済 日本大学, 文理学部, 教授 (10239650)
高橋 伸幸 北海学園大学, 工学部, 教授 (20202153)
孫 暁剛 筑波大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (20402753)
財城 真寿美 成蹊大学, 経済学部, 准教授 (50534054)
荒木 美奈子 お茶の水女子大学, 人間文化創成科学研究科, 准教授 (60303880)
吉田 圭一郎 横浜国立大学, 教育人間科学部, 准教授 (60377083)
山縣 耕太郎 上越教育大学, 学校教育研究科(研究院), 准教授 (80239855)
廣田 充 筑波大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (90391151)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 環境変動 / 植生遷移 / 氷河変動 / モレーン / アンデス / ボリビア |
Research Abstract |
2012年8月にボリビアアンデス、コルディレラ・リアルのチャルキニ峰(5740m)の西カールにおいてモレーンとその植生分布を調査した。分布するモレーンのうち、5つのモレーンに10mx10mのプロットを設け、そのなかの2mx2mの方形区ごとに、植生分布と地表面堆積物の礫経分布を調査した。また、氷河末端付近の植生分布も調査した。 モレーンの年代が新しくなるにつれて、分布する堆積物の礫経も大きく、植物の出現種数や植被率が低下していった。植物の出現種数や植被率には、モレーンの年代の他に、地表面堆積物の礫経分布や高度も関係していると考えられる。現在の氷河末端は高度4990mであり、氷河末端付近における出現種はPerezia sp.(Perezia multiflora )、Deyeuxia chrysantha、Senecio rufescensの3種のみで、それらが大きな岩塊わきに点在し、植被率はきわめて低い。 ボリビアアンデス、コルディレラ・リアルのチャカルタヤ山(5199m)の氷河は2009年に消滅した。水野(1999)やMizuno(2002)により、1993年の調査時の植物分布の上限の高さは、堆積岩の珪質頁岩の地域で4950m、火成岩の石英斑岩地域で5050m、変成岩のホルンフェルスの地域はその中間であった。どの地域も上限の分布植物はイネ科のDeyeuxia nitidulaであった。この3つの地質地域で2012年においても同様な調査を行った結果、石英班岩地域の植物分布の上限は5058mで、ホルンフェルス地域の植物分布の上限は5033mで、珪質頁岩地域の植物分布の上限は5022mであり、その上限の植物種はどれもSenecio rufescensであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ボリビアアンデス、コルディレラ・リアルのチャルキニ峰(5740m)の西カールにおいてモレーンを認定し、そのうち5つのモレーンにおいてプロットを設け、そこでの植生や地表面堆積物の調査を実施できた。また、土壌調査や地中温度の変化など、植生分布に関わる環境因子の観測も実施できた。氷河地形、斜面移動、土壌条件、植生分布など、それぞれの専門家の調査によって多方面から、氷河周辺の植生環境を調査し、解析した。 また、サンアンドレアス大学の地球物理学教室や植物学教室の研究者とも情報交換や意見交換を行うことができ、植物サンプルは植物学教室にて同定してもらうことができた。 チャルキニ峰の西カールや南カールには気温や地温の観測センサーやデータロガーを設置したため、次回の調査時にロガーを回収し、通年の気温や地温の変化を解析することができ、植生環境を検討するのに有効なデータを得ることができると考えられる。 チャカルタヤ山では、植物分布の上限の高さを3つの地質の斜面ごとに把握し、それを1993年のデータと比較できたが、上限に生育する植物種が1993年と2012年では異なっていたため、その変化について今後検討する。 2012年の調査は日本地理学会春季学術大会において、高橋、山縣、長谷川が地形学的調査の発表を行い、水野、吉田は植物生態学的調査の発表を行い、廣田は日本生態学会で発表を行うなど、計6つの学会発表を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
チャルキニ峰西カールにおける各モレーンの年代をより正確に把握する。前回は5つのモレーンのみにプロットを設置したが、残りのモレーンや氷河末端にもプロットを設け、氷河消失後の年代経過による植生遷移の進行をより明確化する。通年の気象観測で得られたデータを用いて、調査地の気候環境から氷河周辺の植生環境を検討する。地中の温度変化や斜面の移動量、土壌条件を観測し、植生の立地環境を分析する。チャカルタヤ山の宇宙線観測所における過去数十年間の気象データを入手し、近年の気候変動を把握し、植生変化との関連を検討する。 氷河周辺までアルパカやリャマの放牧が見られるため、その放牧の植生に対する影響を分析し、地域住民の生業と植生との関係を明らかにする。 近年の温暖化が氷河を介して植生に与える影響と、介さずに直接植生に与える影響や変化を追跡し、温暖化がアンデスの高山植生にかかわる関係について解明を進める。また、その植生変化と人間活動の相互関係を分析する。 アンデスでの調査結果を、これまで調査してきたケニア山やキリマンジャロの調査結果と比較し、アンデスの地域的特性を明確化する。 日本地理学会、生態学会、国際地理学会等での研究発表や、論文等の出版により、研究成果を国内外に発信し、成果を社会に還元するように努める。日本においてアンデスの自然に関する概説書がないので、地形、気候、土壌、植生、水文環境など自然を総合的に解説する概説書の出版を目指す。
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