2013 Fiscal Year Annual Research Report
地球温暖化による熱帯高山の氷河縮小が生態系や地域住民に及ぼす影響の解明
Project/Area Number |
24251001
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Section | 海外学術 |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
水野 一晴 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 准教授 (10293929)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森島 済 日本大学, 文理学部, 教授 (10239650)
高橋 伸幸 北海学園大学, 工学部, 教授 (20202153)
孫 暁剛 筑波大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (20402753)
財城 真寿美 成蹊大学, 経済学部, 准教授 (50534054)
荒木 美奈子 お茶の水女子大学, 人間文化創成科学研究科, 准教授 (60303880)
吉田 圭一郎 横浜国立大学, 教育人間科学部, 准教授 (60377083)
山縣 耕太郎 上越教育大学, 学校教育研究科(研究院), 教授 (80239855)
廣田 充 筑波大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (90391151)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 高山 / 氷河 / モレーン / 植生 / 放牧活動 |
Research Abstract |
2013年8-9月にボリビアアンデス、コルディレラ・リアルのチャルキニ峰(5740m)の西カールにおいて地形、土壌、気候、水文、植生を調査した。カール内に11個のモレーンを認定し、各モレーンにおいて、気温・地温・降雨量観測、土壌断面調査、地表面移動観察、植生分布調査を行った。異なる時代に氷河から解放された土壌を比較することにより土壌の発達過程を分析した。調査の結果、凸地形に比べ凹地形で土壌の発達がよいことが判明した。地温の通年観測から調査地域は周氷河地域に属するが永久凍土が存在する可能性は低いことが明らかになった。表層での凍結融解頻度は表層部の含水量が低い乾季に高く、湿潤な雨季には頻度が低い。そのため周氷河作用が効果的に働かないため、氷河後退後の植生侵入にとっては有利な条件を備えていることが判明した。 西カール氷河後退域のモレーン上には主にイネ科とキク科からなる35種が出現していた。モレーンの年代が古くなるにつれ植被率は上昇していたが、種多様性とモレーンの年代との関係は不明瞭であり、むしろ標高との関係が見られた。 ボリビアでの高標高での気候環境を解明するためにラパスでの1973年~2013年の41年間の気象データを分析した。年平均気温は上昇傾向を示すものの顕著ではなく、夏期に上昇傾向、冬期に低下傾向を示すことがわかった。月平均最高気温はすべての月で上昇傾向にあった。月最低気温は冬期を中心に低下傾向が顕著で、冬期の月最低気温低下は、最低気温の低下と最高気温の上昇を伴って生じていることが判明した。 南カールではリャマ、アルパカ、羊の放牧活動と植生分布の関係が調査された。イネ科のDeyeuxia nitidulaはリャマやアルパカの主要な採食植物であり、リャマ、アルパカの採食行動が氷河周辺の植生に影響を及ぼしていると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ボリビアアンデス、コルディレラ・リアルのチャルキニ峰(5740m)の西カールの氷河後退域において地形、気候、土壌、植生、生業の各方面から調査を行い、その自然環境や植生、放牧活動の関係が明らかになっている。気温や地温現地観測データも1年間得られ、また降雨量の観測も開始した。これらのデータを分析することによって通年の気候環境がより明らかになると考えられる。また、牧畜民への聞き取りも行い、放牧活動と植生との関係も明らかになりつつある。 植生については、モレーンの年代ごとの植生遷移や標高の違いによる植生変化も分析し、またモレーン上の凸地とモレーン間の凹地の植生比較も行い、その地形による土壌との関係から植生の違いを検討している。 2013年の調査の成果は、日本地理学会春季学術大会(2014年3月、国士舘大学)にて、高橋、長谷川、山縣、森島、吉田、水野が発表を行い、日本生態学会(2014年3月、広島国際会議場)では、水野、長谷川、高橋、山縣、廣田によって自由集会「熱帯高山帯における氷河後退域をとりまく自然の現状と展望:地理学と生態学のコラボレーションから」を開催し、5名の研究発表者は生態学者2名のコメンテーターとともに活発な議論を行った。 この研究プロジェクトと関連して、学術論文、Mizuno, K. & Fujita, T. (2014): 「Vegetation Succession on Mt. Kenya in Relation to Glacial Fluctuation and Global Warming」が Journal of Vegetation Science(25, 559-570)に掲載された。
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Strategy for Future Research Activity |
今後もボリビアアンデス、コルディレラ・リアルのチャルキニ峰(5740m)の西カールの氷河後退域における地形、気候、土壌、植生、生業調査を継続し、データの集積や分析を進める。また、5つのモレーンに設置した永久プロットにおいて、植生や自然環境の経年変化を観測する。 また、研究代表者が1992年から観察しているケニア山の氷河後退域における自然環境と植生遷移のデータとボリビアアンデスの調査データを比較検討し、熱帯高山の氷河後退域での自然環境や植生遷移について明確化する。とくに、アンデスの氷河後退域の植生にはリャマやアルパカなどの放牧活動が大きく影響を及ぼし、その点はケニア山と異なっている。そのような放牧活動と植生分布との関係も分析していく。 日本地理学会、日本生態学会、国際地理学会等における研究発表や、論文等の出版により、研究成果を国内外に発信し、成果を社会に還元するように努める。日本においてアンデスの自然に関する概説書がないため、地形、気候、土壌、植生、水文環境など自然を総合的に解説する概説書の出版を目指す。
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