2012 Fiscal Year Annual Research Report
EU統合下の移住女性とケアの政治――仏独伊の事例を手がかりに
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24252003
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Section | 海外学術 |
Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
伊藤 るり 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (80184703)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小ヶ谷 千穂 横浜国立大学, 大学院都市イ ノベーション研究院, 准教授 (00401688)
定松 文 恵泉女学園大学, 人間社会学部, 教授 (40282892)
園部 裕子 香川大学, 経済学部, 准教授 (20452667)
中力 えり 和光大学, 現代人間学部, 准教授 (50386520)
宮崎 理枝 大月短期大学, 経済科, 准教授 (20435283)
森 千香子 一橋大学, 大学院法学研究科, 教授 (10410755)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ケア / グローバル化 / EU / 国際移動 / ジェンダー / 家事労働者 |
Research Abstract |
第一に、国別調査として、以下の諸事項に関する聞き取り調査を実施した。(1)フランス:パリ市と郊外の対人サービス関連機関に対して、移住女性の就労実態と編入支援状況、並びに労働組合による支援状況。(2)ドイツ:フランクフルトとベルリンでサービス部門労働組合VER.DI、移住女性自助・支援団体等に対して、非正規移住ケア労働者の就労実態と支援活動、並びに高齢者介護施設など7機関に対して、介護保険の運用実態と移住ケア労働者の位置づけ。(3)イタリア:ボルツァーノ、ミラノ、クレモナで、移住ケア労働者の雇用、訓練、支援に関わる団体に対して、活動内容、2000年代の正規化措置や経済危機の影響。 第二に、フィリピン人移住ケア労働者横断調査として、ローマのフィリピン大使館、フィリピン人移住女性支援団体等を対象として、近年顕著となっている移住女性の債務問題、第二世代の定着の問題等を調査した。 第三に、ヨーロッパ・レベル調査として、ブリュッセルで欧州委員会やシンクタンクに対して、EUの対人サービス分野での政策関心、ならびに研究対象3ヵ国の相互関係について。さらに、ILO国際移民部、ならびに労働部に対して、第189号条約の制定過程、条約採択後の課題等を調査した。 本研究は、EU/国家/ローカルの3水準における移住女性とケアをめぐる政治の把握を目指しているが、2012年度の重要な知見として、第189条約採択を機に移住ケア労働者、労働組合、研究者の越境的ネットワークが形成されてきていること、そのなかでフランスの取り組みが先進的位置を占めること等が確認できた。尚、パリ郊外の対人サービス振興協会の協力を得て、派遣・紹介事業所(約90ヵ所)を対象としたアンケート調査を2013年度、実施できる見通しとなった。これによって従来の質的調査を量的調査で補う可能性が開けたことになり、2012年度の大きな成果といえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は、2009年に開始した科研プロジェクト「仏伊独における移住家事・介護労働者――就労実態、制度、地位をめぐる交渉」(旧科研)の後継である。旧科研では、3年間にわたり、(1)国別調査と(2)フィリピン人移住ケア労働者の横断的調査の2つの柱を立てて、3ヵ国のケア労働市場に移住女性がどのように位置づけられているのかを、移民政策と社会政策の両面から検討した。 現科研では、先に設定した2つの柱の調査を継続するとともに、3つ目の柱として、EU統合のレベルを設定し、ローカル/国家/EUの3つの空間レベルとその相互作用を捉えることを目指している。2012年度は、EUレベルでも重要な意義をもつ、ILOの家事労働者のためのディーセントワークに関する条約(2011年6月採択)の制定過程について聞き取りを進め、採択後のEUレベル、ならびに対象3ヵ国でのインパクトを考察するための予備的情報を得た。3ヵ国のうち、イタリアのみが同条約の批准を決めているが、ローカルな水準での条約自体への認識が必ずしも高くない。また、ケア労働、ないし対人サービスを、移住女性の社会統合の足場として位置づける政策が、同条約採択後に浮上している点も把握できた。他方、ローカルな水準では、概要で述べたように、パリ郊外の対人サービス振興協会の協力を得て、派遣・紹介事業所(約90ヵ所)を対象としたアンケート調査を、2013年度実施できる見通しとなり、そのための予備調査を3月に集中的に進めることができた。移住女性を焦点化した調査は、フランスにおいても稀少であり、現地の研究協力者の期待も大きい。本研究にとっても質的調査を量的調査で補う可能性が開けたことになり、2012年度の大きな成果と考えている。以上により、当初の計画以上に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では研究対象の3ヵ国を均等に進めるのではなく、共同研究者も多いフランスを重点に進め、ドイツとイタリアについては比較対照の事例として位置づけている。今後も、この方針を維持するが、EU域内/域外の別や域内格差が移住ケア労働者の処遇に与える政治については、東欧諸国に接するドイツ、イタリアの状況把握が重要な参照点となることから、2013年度以降はこの点についても注意していきたい。また、パリ郊外地域で進める対人サービス事業所調査の円滑な実施を進めることが、ローカル/国家/EUの3つの空間レベルの相互作用と力学を捉えていくうえでも、重要な手がかりを与えるだろう。同調査が無事実施されたのちに、調査に応じた事業所に対してフォローアップのインタビュー調査や移住女性自身へのインタビューなどを組み合わせていくことを考えている。こうしたローカルな地点でのデータを国家レベル、さらにEUレベルでの政策との関連で検討することを目指す。
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Research Products
(4 results)