2012 Fiscal Year Annual Research Report
アジアの農業環境に配慮した新規微生物によるカンキツグリーニング病防除基盤の確立
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24255018
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Section | 海外学術 |
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
清水 進 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (20187454)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高木 正見 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (20175425)
上地 奈美 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 果樹試験場・品種育成・病害虫領域, 研究員 (40507597)
市瀬 克也 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 九州沖縄農業研究センター生産環境研究領域, 農林水産技官 (70355642)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | カンキツグリーニング病 / ミカンキジラミ / 新規微生物 / 寄生菌 / 防除 |
Research Abstract |
カンキツグリーニング病(Citrus huanglongbing, HLB)はアジア・アフリカの熱帯・亜熱帯地域におけるカンキツ類の最も恐ろしい病害で、最近では南北アメリカ大陸にも被害が拡大している 。わが国では1988年に西表島で、現在では沖縄県のほぼ全域と鹿児島県の一部で確認されている。温暖化によりミカンキジラミが分布域をさらに拡大した場合、沖縄のみならず日本各地のカンキツ類の生産に深刻な影響を及ぼす可能性が高い。 本研究はHLBの病原細菌Candidatus Liberibacter asiaticus(Ca. Las)を媒介するミカンキジラミDiaphorina citri 中で、同細菌と拮抗する微生物を各地で分離して、それらの抑制力を利用した新規生物的防除法の確立を目指している。 沖縄、ベトナムおよびタイより糸状菌に感染したキジラミより糸状菌を分離し、同定を行った結果、ミカンキジラミの寄生菌としては未報告の菌株を複数分離することに成功した。その中で沖縄県より分離した株は増殖速度が速く、長楕円形の特徴のある分生子の形態を有しておりP. javanicusと同定された。また、ベトナムおよびタイよりの分離株の多くは既報のP. fumosoroseusであった。 ベトナムより分離したP. lilacinusのミカンキジラミに対する病原性は既報のものと、同程度であったが、口吻を葉面に突き刺したまま死亡する特徴を有していた。沖縄からの分離株は同成虫に対して極めて強い病原力を有していた。しかし、幼虫に対しては比較的弱い病原力を示したので、その使用法には検討を要する。今後さらに菌株数を増やして同様な実験を試みる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ミカンキジラミからの分離株を東南アジア各国および沖縄より分離することができた。また、これらの菌学的性状からこれらの多くはIsaria属およびPaecilomyces属糸状菌が多く、他の昆虫から多数分離されるBeauveriaおよびMetarhizium属糸状菌の分離頻度は極めて低いものであった。この理由は不明であるが、ミカンキジラミに病原性を有する糸状菌は特定のものに限られる可能性が高い。したがって、同虫より効率的に寄生菌を分離するには従来の選択培地ではなく、Isaria属およびPaecilomyces属用選択培地の開発が必要となった。 またこれら分離株の菌学的性状および病原性を調査したところ沖縄株は人工培地上での成長が極めて早く、分生子形成が速く、その分子生物学的性状からP. javanicusと同定された。この菌株はミカンキジラミ成虫に対して強い病原性を有していた。ベトナムより分離されたP. lilacinusは病原力は弱いものの、それにによるミカンキジラミの死亡形態は特有なものであった。 以上をまとめると(1)東南アジア各国で寄生菌の分離が難しいミカンキジラミより寄生菌を分離することができた。(2)その寄生菌はIsaria属およびPaecilomyces属に分類され新規の微生物が多かった。(3)また、その寄生菌の多くはミカンキジラミに対して強い病原力を有していたり、死亡形態に特徴があるなどの点より、東アジアには多種多様の機能を有する分離株がさらに多く存在する可能性が高いという結果を得た。 上記の理由によりおおむね順調に進展しているものと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
1.寄生菌に罹病したミカンキジラミの採集 東南アジア、沖縄および鹿児島県において罹病したミカンキジラミを採取する。さらに寄生菌の性状を明らかにする。。 2.寄生菌の分離法の検討および同定と系統解析 ミカンキジラミ寄生菌の分離は困難が予想されるので、マイクロマニプレータおよび各種選択培地を使用して効率的な分離法を開発する。今までの実験ではベトナムおよび沖縄で採取した約50頭の罹病ミカンキジラミより大別して数種類の寄生菌を分離している。ベトナム株や沖縄株の分離結果より、両地域では未知の寄生菌が多数分離されることが予想される。その為、分離同定には(1)従来の菌学的手法と(2)分子遺伝学的手法による系統解析を用いる。 3.寄生菌罹病および健全ミカンキジラミのCa. Las保毒率の調査 HLBの病原細菌はプロテオバクテリア綱のアロファ亜綱に属するグラム陰性細菌で、培養に成功していない原核生物に与られる暫定的な分類学的地位としてCandidadus Liberibacter の名称が与えられている。現在まで3種、アジア型Ca. L. asiaticus(Las), アフリカ型africanus(Laf)および アメリカ型americanus(Lam)が知られているが、アジアではCa. Lasのみが報告されている。そこでCa. Las用に開発されたプライマーを用いLoop-mediated isothermal amplification(LAMP)法により寄生菌罹病および健全ミカンキジラミの保毒率を調査する。ベトナムおよび沖縄における寄生菌の種類とCa. Las保毒率関係を明確にする。Ca. LafとCa. Lamの検出も必要に応じ行う。 4.寄生菌のミカンキジラミに対する病原性の調査 東南アジア各国および沖縄、鹿児島県で分離できた寄生菌の定性病原性調査をそれぞれの国で実施する
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Research Products
(3 results)