2013 Fiscal Year Annual Research Report
嗅覚行動と睡眠による嗅球新生神経細胞の組み込みと排除機構の解明
Project/Area Number |
24300118
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山口 正洋 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (60313102)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 嗅球 / 神経新生 / シナプス構造 / 睡眠 |
Research Abstract |
嗅覚一次中枢の嗅球では常にニューロンが新生し、神経回路の可塑性に寄与している。新生ニューロンの半数は既存の神経回路に組み込まれ、残りは細胞死により排除される。我々はこの新生ニューロンの選別が、マウスの食餌行動と休眠行動に伴って促進すること、この過程で新生ニューロンに対する末梢性匂い入力と嗅皮質由来の中枢性入力が中心的な役割を果たすことを見出している。本研究では、行動様式に伴って新生ニューロンの神経回路への組み込みと排除が行われる過程を明らかにし、その神経分子メカニズムを明らかにする。本年度までの研究により以下のことが明らかとなった。 ・摂食・休眠行動に伴ってレンチウイルス標識された嗅球新生ニューロン樹状突起のシナプス構造の著しい形態変化がおこることを確認した。摂食前に新生ニューロンにおけるfilopodia形成が促進し、摂食・休眠行動中に filopodiaからspineへの変化がおこった。 ・鼻孔閉塞による匂い入力遮断を行った嗅球では、摂食前には嗅球新生ニューロン樹状突起上のシナプス構造の密度は低く、摂食・休眠中にその密度が増加した。匂い入力遮断嗅球の新生ニューロンはシナプス前駆体を盛んに形成するが成熟したシナプスに至らないと考えられた。 ・摂食時のノルアドレナリンシグナルがその後の休眠時の新生ニューロン排除に重要であるが、嗅球へのノルアドレナリンアンタゴニスト・アゴニストの投与実験から、嗅球以外の領域へのノルアドレナリンシグナルが新生ニューロンの選別に重要と考えられた。 ・摂食行動の他、マウスに対するラット提示あるいは電気ショック刺激による恐怖誘導を行ったところ、その後に嗅球新生ニューロンの選別が促進されることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
覚醒・睡眠行動に伴って、短時間の間に嗅球新生ニューロンのシナプス形態に著しい変化が起こることを確認し、さらにこの変化が匂い入力の有無によって大きく左右されることが明らかとなり、シナプス形態の解析は計画に沿って進行している。 また、嗅球新生ニューロンの細胞死による神経回路からの排除を指標として、行動様式に伴う嗅球新生ニューロンの構造変化をもたらす分子神経メカニズムを検討し、細胞の排除に嗅皮質からのtop-downシナプス入力が中心的な役割を担うことを明らかにし、現在論文を投稿し査読中となっている。さらに、アゴニスト・アンタゴニストの全身投与から覚醒嗅覚行動時のノルドレナリンシグナルが重要であることが判明した。更なる薬理学的検討によりノルアドレナリンの作用部位は嗅球以外であると考えられ、嗅皮質へのノルアドレナリン入力がtop-downシナプス入力を変化させることによって細胞死を誘導する可能性が出てきた。以上より、嗅球新生ニューロンの組み込みと排除の機構を理解するには、嗅皮質からのtop-downシナプス入力の理解、特にマウスの覚醒・睡眠行動下における理解が不可欠であることが分かってきた。 当初の計画では、カルシウムイメージングを用いた嗅球スライス標本におけるライブイメージングによる解析を進める計画であったが、上記の観点から、現在は自由行動下マウスの実験を優先的に進めており、この点が当初の計画から遅れていると考えられる点である。自由行動下マウスに対するラット提示あるいは電気ショック刺激による恐怖誘導に伴って嗅球新生ニューロンの選別が促進されることが判明し、嗅球神経回路の再編が動物の行動、特に情動的行動と深くリンクしておこることが分かってきた。この現象において、まず嗅皮質からのtop-downシナプス入力の関与の検討を中心に進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
・摂食・休眠に伴うシナプス機能分子の発現変化を検討する。匂い入力遮断・否遮断嗅球の新生ニューロンシナプス構造における前・後シナプス機能分子の発現を調べ、匂い入力の有無および行動様式に依存したシナプス機能変化・発達を理解する。 ・嗅球新生ニューロンの組み込み・排除における、嗅皮質へのノルアドレナリンシグナルの関与を検討する。マウス嗅皮質にノルアドレナリンアンタゴニスト・アゴニストを投与し、摂食・休眠行動に伴う新生ニューロンの選別、シナプス構造・機能変化がどのように影響されるかを検討する。また、自由行動下マウスにおいて嗅皮質と嗅球の同時電気記録を行い、嗅皮質へのノルアドレナリンアンタゴニスト・アゴニスト投与がtop-downシナプス入力に与える影響を検討する。 ・薬剤投与による嗅皮質神経活動の抑制実験から、食後休眠時の嗅皮質から嗅球へのtop-downシナプス入力が新生ニューロン選別を促進することを明らかにしている。ラット提示や電気ショックによる恐怖誘導の際にもこのtop-downシナプス入力が新生ニューロン選別を促進しているかを、嗅皮質の機能抑制実験により検討する。 以上の検討を通じて、行動様式に規定される嗅球新生ニューロンの構造変化メカニズムの構成要素、すなわち末梢からの匂い入力、嗅皮質からのtop-downシナプス入力、ノルアドレナリンシグナルの、重要性、機能する時間枠、相互作用を明らかにすることを優先的に進める。その後、嗅球スライスを用いたイメージングにより、これらのシグナルシステムが個々の新生ニューロンにおいてどのように統合されるかを検討していく。
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[Journal Article] Continuous postnatal neurogenesis contributes to formation of the olfactory bulb neural circuits and flexible olfactory associative learning.2014
Author(s)
Sakamoto, M., Ieki, N., Miyoshi, G., Mochimaru, D., Miyachi, H., Imura, T., Yamaguchi, M., Fishell, G., Mori, K., Kageyama, R., Imayoshi, I.
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Journal Title
Journal of Neuroscience
Volume: 34
Pages: 5788-5799
DOI
Peer Reviewed
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