Research Abstract |
悪性腫瘍は,日本人の死因の第一位であり,死因の約3割を占めている.その治療の柱のひとつとして外科的摘出術が行われているが,その術中に悪性腫瘍周辺の組織に存在する末梢神経が摘出されたり傷ついたりすることによって温存できず,術後に後遺症を残す症例が数多く報告されている.そのため,術者自身の目では観察困難な細い末梢神経を可視化する技術が求められている.本研究の目的は,研究代表者らがこれまで行なってきたラマン散乱光を用いた組織観察法を基盤に,末梢神経を非侵襲かつin vivo検出可能なラマン顕微鏡システムの開発を行うことである. 本年度は,神経組織計測に適したラマン顕微鏡システムを開発するために,近赤外光に対応したラマン顕微鏡の開発を行った.近赤外レーザー光源671nmを用い,2900cm-1付近(波長では,810nm~880nm程度)のラマンスペクトルの計測に適した分光器および光学系を構築した.また,組織深部での光吸収が強いものの組織表層での強いラマン散乱光強度が期待できる可視光レーザー光源532nmとの併用により,励起波長の違いによる神経組織検出能の評価,および深達度やラマンスペクトルの波長依存性などを評価可能なシステムを構築した.その結果,532nmおよび671nm励起における神経組織のラマンスペクトルの取得に成功した. また,開発したラマン顕微鏡を用いて,神経組織に特異的なラマンスペクトルの探索を行った.特に,神経組織と隣接する他の組織(脂肪,結合組織血管など)とを有意に鑑別できるラマンスペクトルの探索を行った.その結果,2850cm-1付近のラマンバンドを中心に違いが見られることが明らかとなった.また,励起波長依存性を取得した所,532nm,671nm励起において大きな差が見られず,特異な共鳴効果は無いことを明らかにした.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の予定よりも目標を達成するための開発経費を削減することができたため,次年度に直接経費を繰り越した.次年度は,本年度からの繰越金を活用して,本研究目的をより多角的に深くアプローチをする事ができるように,更なるラマン顕微鏡の改良を行う予定である.
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