2014 Fiscal Year Annual Research Report
骨格筋の脂質利用亢進作用を有する食品因子の探索と生活習慣病予防への応用
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24300254
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
飯田 薫子 お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 准教授 (50375458)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
近藤 和雄 お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 教授 (30153711)
鈴木 恵美子 お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 教授 (80154524)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 骨格筋 / 栄養代謝 / 転写因子 / ミトコンドリア / 遺伝子発現 / 炎症反応 / 低糖質食 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は以下の検討を行なった。 1. これまでの研究で、大豆イソフラボンであるDaidzeinが骨格筋培養細胞においてcytochrome bやATPsynthaseなどのミトコンドリア伝達系に関わる遺伝子の発現を増強させることを明らかとしてきたが、本年度は (1)その制御メカニズムにNRF-1,NRF-2,PGC-1α,ERRαなどの複数の転写因子が関わること、(2)ミトコンドリアの定量解析において、Daidzeinが筋細胞のミトコンドリア量を増加させること、(3)RNAiを用いた発現抑制実験により、これらDaidzeinの効果はヒストン脱アセチル化酵素であるSIRT1を介していること、などを明らかとした。またDaidzeinは脂肪細胞やマクロファージなどにも働きかけ、転写因子PPARを介して、これらの細胞の炎症反応を抑制することも併せて明らかにした。(以上、2014年度日本栄養食糧学会等で発表) 2. 近年、肥満の治療において低糖高脂肪食の有用性が報告されている。そこで低糖高脂肪食が骨格筋の代謝変化に与える影響を検討することにより、肥満改善メカニズムの一端を明らかとすることとした。 低糖高脂肪食をマウスに投与し、筋のエネルギー代謝関連遺伝子変化を検討した。この結果、骨格筋や心筋において脂質やケトン体利用に関わる遺伝子、脂質合成に関わる遺伝子の発現が低下し、さらに心筋ではケトン体合成に関わる遺伝子が上昇することを明らかとした。(2015年度アジア栄養会議において発表予定)これらの結果は、筋においてエネルギー源である糖や脂質の供給比率が変化すると、筋での脂質代謝がダイナミックに変化することを示唆している。 3. 2.の検討から派生して、骨格筋のエネルギー代謝産物である乳酸が骨格筋の栄養代謝、特に蛋白質合成を促進する可能性を見いだし、現在そのメカニズムについて検討を行なっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実績に述べたように本年度は食品因子が骨格筋のエネルギー代謝に与える影響について、幅広い研究を行なった。 特にこれまで検討してきた大豆イソフラボンについては、筋ミトコンドリアの増生効果があることや、その詳細な分子メカニズムについて明らかにすることができ、その成果を報告した論文は国際誌に採択された。さらに今年度は食品因子だけではなく、エネルギー代謝産物である乳酸や、低糖質食といった様々な栄養的因子により、脂質代謝を含めた骨格筋のエネルギー代謝がダイナミックに変化することを明らかにした。 一方で、実験に使用する予定であった既存の蛍光顕微鏡が、感度や性能などの点から本研究の推進には不十分であったために新たに顕微鏡を購入することになったが、発注手続きや納品に予想外に時間がかかったため一部の研究に遅れが生じた。このため、当初は本年度が研究課題の最終年度であったが、計画が年度をまたいで繰り越されることとなった。 これらの理由から、研究は十分に行なわれたものの、計画の達成度はやや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究概要実績1)~3)について、各項目毎に以下のように今後の研究を推進していく。 1)骨格筋培養細胞におけるDaidzeinのミトコンドリア活性化および増生作用については現在論文投稿中であり、リバイスの段階である。今後は査読者の指示に従い追加実験を行い、論文の採択をめざす。また、ミトコンドリア関連遺伝子以外にも、脂質代謝に関与する酵素などいくつかの遺伝子について発現変化が認められることを確認しており、その制御メカニズムについて、責任転写因子の同定作業を中心に検討を行なっていく。さらに蛍光色素を用いた高感度スクリーニングを確立し、筋ミトコンドリアに影響を与えるような他の食品因子のスクリーニングを行なっていく。 2)生体において、低糖高脂肪食下で認められた脂質およびケトン体代謝関連遺伝子の変化について、どのような生体内シグナルを介してこれらの遺伝子発現変化が引きおこされるのかを明らかとしていく。まずは、糖質以外の、脂質・蛋白質の比率を替えた飼料を複数種用意しマウスに投与して、筋組織でのエネルギー代謝関連遺伝子の変化を評価する。これにより、低糖質が誘因となるのか、他の栄養素の相対的な上昇が原因となるのかを明らかとして行く。さらに筋組織でのメタボローム解析を行い、遺伝子発現変化と一致した代謝変化プロファイルが得られるかについて検討を行なう。 3)乳酸が骨格筋の蛋白合成を促進するメカニズムを明らかとする。骨格筋細胞を用いて、細胞内蛋白合成シグナルであるS6-kinaseの活性化や、蛋白分解に関わるユビキチンリガーゼ、オートファジーの活性化について検討する。さらには骨格筋の主要な蛋白質であるミオシン重鎖遺伝子の遺伝子発現の検討や、プロモーターを用いたレポーターアッセイを行うことにより、乳酸が直接、骨格筋蛋白質の遺伝子発現を増強させる可能性についても検討を行なっていく
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Causes of Carryover |
最終年度は、蛍光スクリーニングシステムの確立や、蛍光色素を用いたミトコンドリア定量解析を行なう予定であった。 当初は既存の蛍光顕微鏡を用いる予定であったが、感度や性能等の理由から既存のものでは十分な検討を行なう事が困難であった。このため新たに蛍光顕微鏡を購入することとしたが、この購入に際して、在庫状況や手続き上の理由から納品に予想外の遅れが生じたため実験自体に一部遅延が生じて、年度内に課題を遂行出来ずに未使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、「今後の研究推進方策」に従い研究を推進する。生じた未使用額は、主に実験消耗品の購入に充当する。
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