2013 Fiscal Year Annual Research Report
低線量率放射線照射下の生体応答における非相同末端結合の役割の解明
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24310045
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Research Institution | Central Research Institute of Electric Power Industry |
Principal Investigator |
冨田 雅典 一般財団法人電力中央研究所, 原子力技術研究所, 主任研究員 (00360595)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 放射線 / 細胞・組織 / シグナル伝達 / 幹細胞 / DNA損傷 |
Research Abstract |
DNA Ligase IV(以下、lig4)は、DNA2重鎖切断(DSB)の主な修復機構のひとつである非相同末端結合(NHEJ)において切断したDNA末端を最終的に再結合するタンパク質である。Lig4遺伝子に点突然変異を持つlig4tinyマウスを、英国MRC HARWELLから入手し、飼育・繁殖して以下の実験を行った。 1. NHEJ欠損マウスを用いた低線量率放射線照射条件の検討 一般状態を観察するため、非照射条件下においてlig4tinyマウスを27週齢まで飼育した。Lig4ノックアウトマウスが胎生致死であるのに対し、lig4tinyマウスは順調に成育したが、野生型およびヘテロマウスと比較して体が小さく平均体重も著しく減っていた。137Csγ線を連続照射しながら(線量率1.6 mGy/h)lig4tinyマウスを飼育した結果、5週目から体重の減少が認められ、6週目で骨髄死を生じた。このときの積算線量は1.7 Gyであった。当初の予想よりも低線量放射線照射下において感受性が高かったため、次年度からはより低い線量率でも実験を行い、結果を比較することにした。 2.低線量率放射線照射下における造血幹細胞への影響の解析 低線量率γ線照射したlig4tinyマウスを用いて解析した結果、特に白血球や骨髄細胞が著しく損なわれていた。この結果から、リンパ球や骨髄細胞に生じたDSBが修復されずに蓄積したため、ターンオーバーが加速されて造血幹細胞が早期に枯渇した可能性が推測された。対比のため非照射で27週齢まで飼育したlig4tinyマウスを解析した結果、ほぼ同週齢の非照射の野生型マウスと比較して骨髄細胞は半減しており、造血幹細胞(Lin-, Sca-1+, c-kit+)も著しく減少していた。今後は、造血幹細胞の分布を詳細に解析するとともに、造血幹細胞におけるDSBの蓄積も解析する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していたマウスのバイオリソースからの納入に遅れが生じたものの、順調に飼育・繁殖が進んでいる。繁殖を加速するためにヘテロのメスマウスを増やしているため、妊娠マウスを解剖してマウス胎児線維芽細胞(MEF細胞)を作成する実験が若干遅れてはいるが、その間に低線量率放射線照射条件の検討や造血幹細胞に生じる変化の解明が進んでおり、次年度に実施する腸管上皮幹細胞への影響を観察する手法もすでに確立したことから、全体としてはおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定通り、1)低線量率放射線照射下におけるDNA損傷蓄積性の解明と2)低線量率放射線照射下における染色体不安定性の解明を進めていく。 1)においては、予想よりも低線量率γ線連続照射に対して高い感受性を示したため、当初計画した1 mGy/hに加え0.3 mGy/hでの照射も行い比較していく。0.3 mGy/hの場合、約20週で積算線量が1 Gyに達するが、結果に応じて繁殖期間を延ばすことも検討する。また、lig4tinyマウスが線量率効果(線量率を下げた場合に総線量が同じでも生物影響が低減する効果)を示さない可能性を考え、Kaplan–Meier法により生存率を評価する実験も新たに行う予定である。 2)について、本研究のために新たに導入するp53ノックアウトマウスの使用とlig4tinyマウスとの交配について動物および遺伝子組換え生物実験の承認を得ており、MEF細胞を作成して計画通りに実験を推進する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
マウスの納入が遅れたため、造血幹細胞の解析に使用する蛍光抗体の一部や遺伝子型判定などに使用する使用期限のある試薬の購入を次年度に行うこととしたため。 蛍光抗体や遺伝子型判定に使用する試薬、および遺伝子型判定に使用するRT-PCR消耗品の購入に使用する。
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