2012 Fiscal Year Annual Research Report
植物と微生物のスーパーシンビオーム系の創出とそれを利用した排水処理
Project/Area Number |
24310057
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
|
Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
遠山 忠 山梨大学, 大学院・医学工学総合研究部, 助教 (60431392)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 環境保全技術 / 環境修復技術 / 排水処理 / 植物根圏 / 水生植物 / 植生浄化 / 植物成長促進根圏微生物 / 内分泌撹乱化学物質 |
Research Abstract |
本研究は、水生植物の根圏における植物と微生物の共生・相互作用が発揮する新しい現象、能力と効果を分子レベルで解明するとともに、その作用効果を最大限発揮させることによって、個々の植物と微生物では不可能であった機能を有する植物・微生物共生系(スーパーシンビオーム系)を創出することを目的し、特に、そのシンビオーム系を利用した効率的な窒素・リン除去と有機化学物質除去技術を開発することを目指している。 平成24年度では、水生植物の成長促進根圏微生物(Plant Growth-Promoting Rhizobacteria : PGPR)を探索したところ、ウキクサの成長を1.5倍以上促進するPGPR(Sinorhizobium sp..SP4、他20菌株)およびヨシの成長を1.5倍以上促進するPGPR(Asticcacaulis sp. PAWW6、他10菌株)を分離することに成功した。成長促進効果が優れていたPGPRの植物成長促進作用の一部も明らかにすることができた。さらに、PGPRをウキクサあるいはヨシの根表面に定着・配置することで、それぞれの植物の窒素・リン除去速度を1.5倍以上高速化することに成功した。このように、水生植物-PGPRシンビオーム系を創出することにより、水生植物が持つ窒素・リン除去速度とバイオマス生産速度を高速化できることを実証した。 一方、ノニルフェノール等の内分泌撹乱化学物質を分解する根圏微生物(Sphingobium spp..IT4、他3菌株)の分解メカニズムを明らかにした。それらの根圏微生物をヨシの根に定着・配置させたヨシ・分解菌シンビオーム系によって、内分泌撹乱化学物質混合汚染水を連続的に処理することに成功した。野生ヨシは、内分泌撹乱化学物質をほとんど除去できないことから、植物・分解微生物シンビオーム系が難分解性有機化学物質処理に有効であることが実証された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は、1.植物成長促進根圏微生物(PGPR)と有機化学物質分解根圏微生物の分離、2.優れた機能を持つ根圏微生物のスクリーニング、3.スクリーニングしたPGPRと分解菌の特徴を解明することを研究目標とした。その達成度は以下の通りである。 1.PGPRと有機化学物質分解根圏微生物の分離と、2.優れた機能を持つ根圏微生物のスクリーニング:ウキクサの成長を1.5倍以上促進するPGPR(Sinorhizobium sp. SP4、他20菌株)およびヨシの成長を1.5倍以上促進するPGPR(Asticcacaulis sp. PAWW6、他10菌株)を分離することに成功した。そのPGPRの中から、特に成長促進効果が高いSP4やPAWW6などのPGPRをスクリーニングした。一方、有機化学物質を分解する根圏微生物として、ニトロフェノール分解根圏微生物(Rbodococcus sp. DNR2、他12菌株)、ビスフェノールA分解根圏微生物(Novospbingobium sp. TYA、他2菌株)、ノニルフェノール分解根圏微生物(Sphingobium sp.IT4、他2菌株)やブチルフェノール分解根圏微生物(Sphingobium spp. TIK1、OMI)を分離し、その分解菌の中から、フェノール性内分泌撹乱化学物質の分解スペクトルが広いIT4、TIK1とOMIをスクリーニングした。 3.PGPRと分解菌の特徴解明:PGPRであるSP4やPAWW6などについて詳細な実験を実施し、植物ホルモン生産や鉄キレート剤生産などの植物成長促進作用の一部を明らかにした。さらに、これらのPGPRをウキクサあるいはヨシの根表面に一定以上の密度で定着・配置することで、それぞれの植物の窒素・リン除去速度を1.5倍以上高速化することに成功した。このように、水生植物・PGPRシンビオーム系を創出することにより、水生植物が持つ窒素・リン除去速度とバイオマス生産速度を高速化できることを実証した。一方、内分泌撹乱化学物質分解根圏微生物であるIT4、TIK1、OMIの分解経路を明らかにし、IT4に関してはその全ゲノム情報を取得することができた。 IT4やTIK1をヨシの根に定着・配置したヨシ・分解菌シンビオーム系によって、野生ヨシではほとんど分解することができない内分泌撹乱化学物質(ノニルフェノール、オクチルフェノールとビスフェノールA)混合汚染水を連続的に処理することに成功した。このように、植物・分解微生物シンビオーム系が難分解性化学物質処理に有効であることを実証することができた。 これらの実験結果をまとめ、学術論文と国内、国際学会において研究成果を発表することができた。以上のことから総合的に判断し、研究進捗度を「(2)おおむね順調に進展している。」とした。
|
Strategy for Future Research Activity |
現在の研究進捗状況は、「おおむね順調に進展している。」と判断できていることから、当初の計画通りに今後の研究を推進する。すなわち、平成25年度は、24年度に獲得した微生物材料と、ウキクサとヨシの水生植物材料を利用して、植物と微生物の共生・相互作用を分子レベルで解析する。具体的には、「植物とPGPRのシンビオーム系」と「植物と内分泌撹乱化学物質分解微生物のシンビオーム系」を用いたリアクターを構築し、排水処理実験を実施する。この実験を通して、植物-微生物シンビオーム系の排水処理性能が、植物のみ、および微生物のみの性能に比べて高いことを実証する。さらに、それぞれの植物-微生物シンビオーム系による排水処理過程において遺伝子発現解析とメタボローム解析を行うことにより、植物と微生物で高発現している遺伝子と代謝経路を特定する。それらの結果を総合的に解析・考察することによって、排水処理過程において、植物-微生物シンビオーム系が発揮する新しい現象、能力と効果を分子レベルで明らかにする。 さらに、平成26年度では、植物・機能微生物(PGPRや分解菌のコンソーシアム)シンビオーム系を組み込んだ排水処理のパイロット実証試験を実施し、その実用性と問題点を評価する。
|