Research Abstract |
磁性ナノ粒子を用いた癌温熱療法ではその医学的効能の有無が焦点となってきたため,発熱モデルとしては熱平衡状態からの線形応答といった単純な模型が用いられてきたが,必ずしも実験事実と一致するわけではなかった.最近,代表者らは,癌温熱療法条件下での磁性ナノ粒子の振舞についてシミュレーションを行い,従来の通念とはかけ離れた非平衡定常構造,例えば,孤立した磁性ナノ粒子において交流磁場中で磁場方向に垂直な面内に磁化容易軸・磁化ベクトルが配向した構造等,が現れることを初めて見出し,そうした構造に発熱の最適条件が大きな影響を受けることを示した.そこで,本研究では,粒径・形状を制御され素性の明らかな磁性ナノ粒子を合成し,それらの個別/集団での振舞がシミュレーションの予測と一致するかどうかを,透過力の高い量子ビームを用いたマルチスケール評価法で検証し,癌温熱療法の最適設計に不可欠な基礎的知見の確立を目指している. そこで,初年度である本年度は,まず,オレイン酸とオレイルアミンの混合溶液(無溶媒)中の熱分解法を用いて一連のマグネタイトナノ粒子を合成を試み,これまで困難であった15-20nmのサイズのナノ粒子合成方法を見出した.また,これらのナノ粒子の発熱特性を物質・材料研究機構に新規に導入された磁気温熱効果計測装置で周波数・磁場強度を変えて測定した.この結果は,本年度さらに改良し信頼性を増したシミュレーションの予測と矛盾しないものであった.一方,量子ビームを用いたマルチスケール評価では,ビームライン用交流磁場印加装置の設計を進めるとともに,静磁場中で小角中性子散乱実験を行い,定常磁場中での粒子問構造の変化等の情報を得ることができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
その場観察用の交流磁場印加装置の作製にやや遅れがあるものの,これまでより大きめのマグネタイトナノ粒子の合成やブラウン動力学シミュレーション法の改良,また,交流磁場振幅と周波数を変えての発熱量の計測,中性子小角散乱を用いた構造評価等,計画より進展した部分もあり,全体としてはおおむね順調に進展していると自己評価した.
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