2013 Fiscal Year Annual Research Report
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24310160
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
末永 聖武 慶應義塾大学, 理工学部, 准教授 (60273215)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
照屋 俊明 琉球大学, 教育学部, 准教授 (90375428)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 海洋シアノバクテリア / 腫瘍細胞増殖阻害 / トムルリン / ビセリングビアサイド / 小胞体ストレス / クラハイン / ビセブロモアミド / 標的生体分子探索 |
Research Abstract |
沖縄県の海岸で、干潮時に潮間帯の海洋シアノバクテリアを採集した後、有機溶媒による抽出で得た抽出エキスに対して生物活性試験を行った。活性の強い抽出物を分離・精製し、新しい活性物質を数種類得た。トムルリンは2個のチアゾール環を含むポリケチドで腫瘍細胞に対して強い増殖阻害を示す。トムルリンは細胞密度依存的な増殖阻害活性を示すことが分かり,栄養飢餓状態での細胞増殖を選択的に阻害している可能性がある。現在さらに解析を進めている。また、ビセリングビアサイドの作用機構解析をさらに進めた。ビセリングビアサイドおよびその誘導体は細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させる作用があることが分かった。さらに、ビセリングビアサイドが小胞体ストレスマーカー遺伝子の発現に及ぼす影響を調べた。その結果,BiPやCHOPなどの小胞体ストレスマーカータンパク質遺伝子の発現を時間および濃度依存的に誘導した。したがって、ビセリングビアサイドは腫瘍細胞に対して小胞体ストレスを引き起こしていることが明らかとなった。さらに小胞体膜上のカルシウムイオンポンプたんぱく質SERCAの活性を低濃度で阻害することが分かった。今後、SERCAとの共結晶化・構造解析を検討する。最近単離構造決定したクラハインも細胞内カルシウムイオン濃度上昇作用を持つことが分かった。この化合物も小胞体ストレスを誘導している可能性があるので、今後小胞体酢テレスマーカー遺伝子発現に及ぼす影響やSERCA活性に及ぼす影響を調べる予定である。蛍光誘導体も合成したので,細胞内局在を蛍光顕微鏡を用いて解析する。また、ビセブロモアミドについては、ビオチン標識体の合成を行った。今後、標識体の生物活性評価および標識体を用いた生体標的分子の探索を進めていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の中で、ビセリンビアサイドの作用機構に関する研究は特に順調に進んでおり,当初の計画を上回る進展があった。現在までに細胞内カルシウムイオン濃度上昇作用が確認され,小胞体ストレスを引き起こすことも確認できた。ここまでは計画通りであるが,さらに小胞体膜上のカルシウムイオンポンプたんぱく質SERCAの阻害活性も確認できたので,ビセリングビアサイドの生体内標的分子が明らかとなった。さらに、ビセリングビアサイドのアグリコンに相当するビセリングビオライドAおよびBの全合成に成功した。これらはビセリングビアサイド類の中で最も強い生物活性を有するので,今後はこの全合成ルートに基づき、種々の誘導体を合成し、構造活性相関や生物活性をの研究をさらに精密に進めることが可能である。 ビセブロモアミドの作用機構に関する研究は概ね当初の計画通りに進展している。現在までにビオチン標識体の合成を達成しており,生体内標的分子の探索を予備的に開始した。本研究の最終年度である2014年度中に、標的分子に関する知見が得られる見込みである。 レプトリングビオライド類に関する研究はやや遅れている。結晶誘導体の調製に苦労しており,現在までに構造解析に適した結晶は得られていない。微細な結晶は得られているので,マイクロビーム放射光を用いた解析を検討する。 クラハインは2013年度に新たに発見した化合物であり,当初の研究計画には含まれていない。細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させる作用があることが分かり,生物活性を落とさずにビオチンや蛍光基を導入することができることも分かった。ビセリングビアサイド類と類似の生物活性をもつが構造的には全く異なっているので,上記の研究とは違った角度から新しい知見が得られると期待している。
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Strategy for Future Research Activity |
ビセリングビアサイド類にはSERCA阻害活性があることが分かったので,天然および合成品の誘導体について腫瘍細胞増殖阻害活性,SERCA阻害活性を評価し構造活性相関を明らかにする。さらにビセリングビアサイドとSERCAの共結晶の作成・構造解析を行い,ビセリングビアサイドとSERCAの結合様式を分子構造レベルで明らかにする。構造活性相関研究と構造生物学的研究の知見を合わせて考察し、ビセリングビアサイドの作用機構の全貌を明らかにし,その医薬やライフサイエンス用試薬としての応用の可能性も考えたい。クラハインについても細胞内カルシウムイオン濃度上昇作用があるとが分かったので、ビセリングビアサイド類で行った同様の解析を進めたい。すなわち小胞体ストレスマーカー遺伝子発現に及ぼす影響の解析やSERCA阻害活性について検討する。またクラハインの蛍光標識体を合成したので,その細胞内局在を蛍光顕微鏡を用いて観察する。 ビセブロモアミドについては合成したビオチン標識体を用いて細胞抽出液に対するプルダウンアッセイを行い,生体内標的分子を探索する。レプトリングビオライド類については引き続き誘導反応を検討し,構造解析に適した結晶誘導体を得ることを目指す。上手くいかない場合は、微細結晶を用いた構造解析も検討したい。 何れの化合物についても、研究を進めるうえで必要量の天然物の確保が重要である。今後も沖縄などで海洋シアノバクテリアを採集し、抽出分離により必要量の天然物を得たい。ビセリングビオライドAおよびBについては全合成が達成できているので,合成品も使っていきたい。ビセブロモアミドの合成研究も進めているが,2014年度中に全合成を達成し,合成による供給も可能としたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度終盤に計画した実験が思ったように進まなかったため,実験計画を再考し、次年度に実施することになった。それに要する費用を次年度の研究費から支出する。 レプトリングビオライド類に関して、誘導反応と結晶化の検討に用いる試薬代として使用する。
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