2015 Fiscal Year Annual Research Report
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24310194
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
藤目 ゆき 大阪大学, 人間科学研究科, 教授 (60222410)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
今岡 良子 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 准教授 (50273735)
木戸 衛一 大阪大学, 国際公共政策研究科, 准教授 (70204930)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 母親大会 / 土川マツエ / グリーナムコモン / 国際民主婦人連盟 / WIDF / 婦人国際平和自由連盟 / WILPF / 原水爆禁止運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度は第二次世界大戦の終結・広島と長崎への原爆投下から70周年という節目の年に当たり、原爆と戦争をめぐる日本の歴史認識をめぐる議論が様々なレベルで行われた。本研究では、これらの議論動向を注視しつつ、原水爆・核兵器という冷戦時代を象徴する問題を女性史の視点から調査・考察しようとした。特に、1945年の原爆被害を女性史の観点から再考すること、1954年のビキニ被爆を契機に高揚した原水爆禁止運動や世界母親大会などの国際女性運動の場において女性たちの果たした役割を明らかにすること、1960年代後半から70年代にかけて登場するウイメンズ・リベレーション運動以降の新しい国際的女性運動の潮流について調査することを重視した。 2015年度の研究活動は、堀場清子氏やノーマ・フィールド氏の協力を得て、故三宅義子氏の女性学研究業績を全体的に検討し、冷戦時代の女性史を研究するためのフェミニスト・エピステモロジーの構築をめざす視点を検証するところから開始した。続いて、1950年代の日本における冷戦の影響とこれに対する社会運動に関する調査のために、神奈川県公文書館、岩手県二戸郡一戸町小繋、福岡県田川郡添田町落合などで文献収集・現地調査を実施した。さらに11月には、近藤和子氏、深江誠子氏、梁東淑氏らの協力を得て、スコットランドで長く平和運動・女性運動に従事してきたジャネット・フェントン氏(元・WILPF英国代表)とデビッド・マッケンジー氏(スコットランドCND)を日本に招待した。フェントン氏らの滞在中、1950年代から今日までの英国及びスコットランドにおける女性運動史に関するインタビューを行い、岩国市の米軍基地及び米軍住宅建設予定地の見学、広島市における核被害者世界フォーラム、大阪市におけるグリーナム女性平和キャンプに関するドキュメンタリーの上映会などの調査・研究活動において協力を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2015年度が第二次世界大戦終結・被爆70周年にあたることは本研究を構想したときから強く意識してきたことであり、最終年度ではないとはいえ、なんらかの形で中間的な総括が必要な年度になると考えていた。とはいえ、核兵器とフェミニズムの連関に関する調査は、本研究の初期にあたる2012年度・2013年度にはまだ漠然としたものであった。が、本年度には前年の2014年度の終わりに実施した英国調査をふまえて、1980年代の反核平和運動のニューウエーブを本格的な研究することができた。前年度までは冷戦時代の国際女性運動を体現する組織としてWIDFとその傘下で活動した各国女性団体に主に注目してきたが、今年度はこのような80年代の反核平和運動への着目を通して、WILPFやグリーナムコモン女性平和キャンプをはじめとするニューウエーブの女性運動の研究を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は最終年度にあたるので、前半に追加調査を完了し、後半にこれまでの調査成果を集約し、総括する。 追加調査を行う領域の第一は、高度経済成長時代の日本において各地に展開した原水爆禁止運動、反基地運動、安保闘争、ベトナム停戦運動などである。これらの活動に参加した女性たちに関する資料収集を行う。特に立川基地拡張予定地とされた砂川の婦人会、入会権をめぐる岩手県のこつなぎの女性たち、軍事演習地とされた北富士梨ケ原への入会権のために闘った忍草婦人会に関する調査を重視する。第二は、冷戦終結前後の1980年代から90年代にかけての国際女性運動の動向である。80年代のヨーロッパの反核運動には、WIDFやWILPFのような既存の大きな女性組織だけでなく、ラディカル・フェミニズムやエコロジカル・フェミニズムといった新しい女性運動の潮流が登場した。女性運動の世代交代やその意義についての資料収集が必要である。 年度の後半には、研究総括のために研究会やシンポジウムを開いて共同研究者との議論を深める。予想される重要な論点の第一は、WIDFの再評価についてである。近年、東欧や南欧の女性史研究者がWIDFの再評価に結び付く重要な論婚を発表しているが、本研究はアジアの視点からWIDFをさらに進化させることに寄与しうる。第二の論点は、国際反核運動の評価である。日本の原水爆禁止運動の分裂は通常、政党系列に大衆団体が分裂した日本の国内現象として理解されてきたが、本研究では海外の研究者との研究交流を行い、国際的な視野から原水禁運動の分裂問題を考察する。第三の論点は、冷戦時代の女性運動の体験継承の意義についてである。WIDFやWILDFのような長い歴史を持つ女性組織のみならず、英国のグリーナムコモン女性平和キャンプのように冷戦末期に登場した女性運動の体験がどのように次世代に継承されているかについて考察する。
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Research Products
(7 results)