2012 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀前半「世界不況」下の貿易・貨幣・農業:ユーラシア東南部における比較と関連
Project/Area Number |
24320117
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
大橋 厚子 名古屋大学, 国際開発研究科, 教授 (80311710)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
脇村 孝平 大阪市立大学, 経済学研究科, 教授 (30230931)
菅谷 成子 愛媛大学, 法文学部, 教授 (90202126)
藤田 加代子 立命館アジア太平洋大学, アジア太平洋学部, 准教授 (90454983)
菅原 由美 大阪大学, 言語文化研究科, 准教授 (80376821)
斎藤 照子 東京外国語大学, 外国語学部, 名誉教授 (70162211)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | ユーラシア島南部 / 19世紀前半 / 国際交易 / 貨幣制度 / 農業不況 |
Research Abstract |
5月下旬に国際シンポと国内シンポを実施し、19世紀前半東南アジアを中心とする貨幣制度の変化を検討した。これらのシンポから得られた知見と、その後御何回かに渡って実施されたラウンドテーブルおよび打ち合わせ会での議論をもとに、19世紀前半のユーラシア東南部では、次のような展開が存在することがラフな仮説として提示された。 1770年代から1810年代までは世界市場向けコーヒーなど熱帯産物の価格の高騰の結果、多くのヨーロッパ船がユーラシア島南部に来航し、新世界からの銀の流入の増加で、商業的栽培が活発となった。一方、独占貿易と不自由労働を使用した生産とを柱とする政経未分化の重商主義政体は、独占を破られて行き、利潤が低下していた。 しかし1820年代から40年代にかけては、貿易量が伸長するなかで世界市場向け産物の価格に加えて綿製品などの工業製品価格も下落した。東南アジア各政権は薄利の中で世界市場向け産物の生産体制を保持する必要に迫られたが、これは貿易利潤では財政バランスを維持することができなくなったことを意味した。各政権は産物の集荷を徴税に頼った結果、世界市場向け産物の不自由労働による生産が再び展開するとともに、中央と地方の関係が緊密化した。1820年代ころを画期として貿易構造が質的に転換したと言える。南シナ海沿岸では中国産品を得るために銀にかえて各地の産物を中国に輸出するようになり、国際通貨システムの乱れ、外の混乱が内に入らないように自国の貨幣制度を整備した。またこの期間にアモイを拠点とする福建人ネットワークが一時衰退した。東南アジア各政権によるこの時期の領土の確定、中央集権、統一貨幣制度など近代的装いの制度改革はデフレへの対応(ブロック化)である可能性が高い。 1840年代後半から以上のような貿易システムの混乱は回復したが、イギリスはこの「ブロック」を破壊せずにむしろ利用して、その上に金融網を張ったと考えられる。さらなる仮説として、この時期にできた「ブロック」がイギリス帝国システムの下で国家として残ったと考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本科研の目的(1)19世紀前半ユーラシア東南部について、個別実証研究を遂行する。(2)地域研究および歴史社会学の方法的成果を吸収しつつ実証研究を比較し関連づけることで、19世紀前半ユーラシア東南部における地域(region)的政治経済秩序の形成を解明する。(3)帝国に挟まれ自ら秩序を形成せずかつ複数の帝国が交差する「狭間の地域」(東南アジア)を中心に置いた地域秩序形成の分析モデルを提出する。)が実証研究および枠組み作りともに進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
貿易、貨幣制度、農業にかかわる各地の実証研究を出来るだけ積み重ね、これらの研究によって仮説を修正してゆくとともに、試作を始めている地域秩序形成の分析モデルを明示する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の残額については、平成25年度の早いうちに成果公開に資する翻訳を行い、また一部ディスカションペーパーの刊行に使用する。平成25年度分については研究分担者および若手研究協力者の研究遂行に使用されるほか、海外の研究者を招いてのワークショップ、ディスカションペーパーの発行に使用する。
|